孫社長、米国制覇の課題は“脱・負け犬根性”

 ソフトバンクの孫正義社長が11日、米ワシントンでプレゼンテーションを行う。米携帯電話業界の変革をねらい、ケーブル回線より先進的な無線ネットワークに利点があることを説明するとみられる。

 ソフトバンクは昨年7月、米携帯通信3位のスプリントを約220億ドルで買収。さらに、4位のTモバイルUS(ドイツテレコム傘下)を買収しようとしたが、米連邦通信委員会(FCC)が難色を示した。FCC委員長は、4社から3社に減ると競争促進の効果があるか疑わしいとしている。

 米携帯電話業界においては、上位2社のAT&Tとベライゾンが、全加入者の3分の2以上を有し、業界の利益をほぼ独占している。

【FCC説得から国民支持獲得へ、戦略転換】
 孫社長はワシントンで、無線ネットワークが全米をつなぐ超高速インターネットサービスの実現や、教育やモバイル電子商取引を改善する可能性などに言及するという。ただ、スプリントとTモバイルの合併を直接訴える予定はないとみられる。匿名の関係者が語ったとブルームバーグが報じた。

 ウェルズ・ファーゴのアナリスト、ジェニファー・フリッチェ氏はブルームバーグに対し、「ソフトバンクの戦略は、強力な第3位の事業者が誕生すればケーブル業界に対抗できるようになると主張し、FCCと司法省を説得することだ」と語ったという。

 一方、「孫氏は恐らく、米ワイヤレス業界に4社あった方がよいとする当局に対抗し続けるより、はるかに競争力の低い家庭用ブロードバンドにおいて主張するねらいだ」という、BTIGのアナリスト、ウォルト・ピエシク氏のコメントも同誌は掲載した。専門家の見方もわかれている。

【苦境のスプリントとTモバイルの躍進】
 スプリントは最優先課題として、通信速度の劇的な向上を目指し、携帯通信網を丸ごと刷新している。昨年は回線接続スピードの高速化に75億ドルを投入、今年は追加で80億ドルを投じる意向だ。

 しかし昨年、200万人以上の顧客が流出。今年1月に新たに始めた「フラミリープラン」で巻き返し、第4四半期の解約者数はアナリスト予想を下回った。これは友人や家族を1つの携帯電話プランに加入させれば大きな割引が受けられる仕組み。

 ただ、孫氏の「やめるとは決して言わない」スタイルはここにきて困難な試練に直面しているとウォール・ストリート・ジャーナル紙は指摘した。

 背景には、Tモバイルの躍進がある。サービス契約を撤廃し加入者が頻繁に機種変更できるようにしたり、国際ローミングの無料化などの取り組みを進め、昨年、加入者数を1300万人増やした。1月には他社から乗り換えるユーザーに最大450ドル支払うサービスも導入。AT&Tとベライゾンも対抗策を講じている。

【孫氏の狙いと苛立ち】
 こうした事態を受け、孫氏が目下取り組んでいるのが、スプリントの“負け犬根性”の是正だ。孫氏は先月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し「スプリントのカルチャーを変える必要がある」と語っていた。

 それはスプリントの5540万人の顧客基盤を育て、2009年以来150億ドルの損失を埋め合わせる最善の戦略だろうとテック・タイムズは報じた。

 ただ、孫氏が理想的なシナリオとする「スプリントとTモバイルの合併」について、スプリントのネットワークが最小の携帯電話キャリアと合併し、トップ2社に対抗できるかはまだ課題だと同紙は指摘した。

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Text by NewSphere 編集部