武田薬品に誇大広告疑惑 日本の臨床研究、国際的な信頼を失う可能性も=米紙

 武田薬品工業が販売する降圧剤「ブロプレス」の広告に、臨床研究の論文とは異なるグラフが使われていた問題で、長谷川閑史社長は3日、「不適切な表現」があったと認め、謝罪した。

 ただ、研究データの改ざんは否定し、第三者機関を設置して原因究明を進める意向を示した。厚生労働省も先週、調査する方針を明らかにしていた。

 降圧剤「ブロプレス」は同社の主力薬の1つで、2012年度の国内売上高は1340億円にのぼる。

【疑惑発覚の経緯】
 平成13~17年に京都大学、大阪大学、慶応大学などの研究チームが、患者4700人を対象に、武田薬品の降圧剤「ブロプレス」(一般名・カンデサルタン)の効果を別の降圧剤「アムロジピン」と比較。論文では2つの薬の効果に差はなかったが、京都大学病院医師の由井芳樹氏が、医師向け広告などに「ブロプレス」にとって好都合な見せ方をしていると指摘した。

 同社は研究チームが論文をまとめる約1年半前に学会発表した際の古い資料を使い続けたと説明。臨床研究を行ったチームの代表者だった猿田享男慶応大学名誉教授はNHKの取材に対し、「広告の記事内容は誤りで、事前にチェックすべきだった」とコメントした。

【問題点】
 グラフの違いを指摘した由井氏は2つの問題点を上げた。心血管系の病気の累積発症率を比較したグラフが複数存在することと、論文に掲載されたグラフの統計処理の手法が不適切であることだ。

 由井氏は昨年、ノバルティスファーマが販売する降圧剤「ディオバン(一般名:バルサルタン)」をめぐる不正論文問題を追及した人物でもある。この事件では、大学の研究チームが行った臨床試験にノバルティスの社員が関与していたことが発覚。データを不正に操作したとの疑惑が持ち上がり、厚生労働省は薬事法違反の疑いがあるとして東京地検に刑事告発した。

 武田薬品は京都大学などに総額37億5000万円の奨学寄付金を提供したが、研究に社員は参加しておらず、「利益相反上の問題はない」とした。しかし研究には、同社を退職後に京都大学へ移った元社員が参加していたという。

【海外や日本の講評】
 厚労省が、スイスのノバルティスと日本の武田とで差別的な取り扱いをすれば、国際的な問題にも発展しかねない、と郷原信郎弁護士はブログで指摘している。今回の問題は、約1兆4000億円に上る対象医薬品の売上規模のみならず、日本の医薬品業界のトップ企業が起こした、コンプライアンスの根幹に関わる「史上最大の企業不祥事」だと批判した。

 一方、この研究では誇大広告に対する医師への利益供与も疑われており、癒着があれば「ノバルティスの論文不正問題と同じ構図」だとダイヤモンド・オンラインは報じた。

 東洋経済オンラインも、問題の構造が似ていると指摘。現時点でデータ改ざんの有無は不明だが、不適切な販促によって武田が過剰利益を得たという見方は成り立つと報じた。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日本の大手薬品会社を巻き込んだ今回の問題は日本の臨床研究への信頼をさらに揺るがす可能性があると報じた。

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Text by NewSphere 編集部