ユニクロ、『J.クルー』の買収検討? 5000億円規模の投資で、米国でのカムバックねらう=米紙報道

 ユニクロを経営するファーストリテイリングが、アメリカのファッションブランド、『J.クルー』に買収を持ちかけていると、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が3日、事情通から得た特ダネとして伝えた。

 J.クルーは、ミシェル・オバマ大統領夫人やアンジェリーナ・ジョリーも愛用するカジュアル系高級ブランド。同紙などは、柳井正社長が目論む海外展開の拡大と、ブランドイメージアップを狙った動きの一環とみている。

【50億ドル以上で交渉中か】
 WSJが伝えたところによると、ファーストリテイリングは、J.クルーを経営する投資ファンドのTPGキャピタルとレナード・グリーン・パートナーズに接触し、買収に向けた交渉を行っているという。J.クルー側は50億ドル以上での売却を望んでいるといい、ファーストリテイリングがその金額に応じるかどうかが注目される。

 これらの事実を明かした人物によると、「話し合いは初期段階で、決裂する可能性も含んでいる」という。同紙は、ファーストリテイリングの元幹部の言葉として、「柳井社長は自らが妥当と判断した額以上は一銭たりとも払わないことを身上としている」と伝えている。

 J.クルーは、1983年に通信販売のカタログ事業としてスタートし、1989年に店舗での小売ビジネスを開始。アメリカ、カナダ、イギリスで400以上の店舗を展開する。かつて日本でも店舗展開をしていたが、業績不振により2009年に撤退している。2月1日に終わった会計年度の収益は9%増の24億ドルだった。

【苦戦するアメリカ市場のテコ入れ策】
 ファーストリテイリングは、「2016年8月までに海外での売上を日本国内よりも上回らせたい」として、限界の見える日本市場に見切りをつけ、海外に目を向けているとされる。

 現在、ユニクロは日本を除くアジアで421店舗を展開する。アメリカでは20店舗以下にとどまり、苦戦が伝えられる。ブルームバーグによると、数年以内にアメリカ市場でカムバックを果たし、100店舗を展開することが柳井社長の目標だという。

 WSJは、これまでのユニクロのアメリカ進出の道は「平坦ではなかった」と表現。2006年にアメリカ中のショッピングモールに出店したものの、業績不振で軒並み1年以内に閉店した事実を伝えている。J.クルーの買収は、こうした状況へのテコ入れ策だと同紙は分析する。

【柳井社長のJ.クルーCEOへの憧れ】
 J.クルーの現CEOは、かつて『Gap』を世界的なブランドに押し上げたことなどで知られる、ミラード・“ミッキー”・ドレクスラー氏だ。

 WSJによると、柳井社長はドレクスラー氏を大尊敬しているという。同紙によると、柳井社長は1980年代と90年代のGapに夢中になっていたといい、ユニクロのTシャツやパンツのラインナップは、「流行を先取りする眼力と細部への強いこだわりで知られる」ドレクスラー氏を手本にしたという。また、東京で偶然ドレクスラー氏に会った際には「教授」と呼び、柳井社長のデスクには、しばらく二人で撮った写真が飾られていたらしい。

 ドレクスラー氏は2002年にJ.クルーのCEOに就任すると、カジュアル系高級路線へのブランドイメージの転換に成功した。ブルームバーグは、J.クルーの精神は「デザイン+バリュー」であり、「(若者向けの)ZaraやH&Mよりも高価格帯で、デザイナーズブランドよりも下」と表現。カジュアルで日常使いの衣類を中心としたラインナップは、「若者の憧れと洋服ダンスの必需品を求める裕福な購買層を引き寄せた」と評する。

 ブルームバーグは、ユニクロが近年、銀座やニューヨークの五番街などに出店していることなどをふまえ、「低価格チェーンというイメージを払拭したがっている」と分析する。J.クルーの買収についても、中〜高所得者を中心とした「従来のユニクロの購買層とは異なる消費者にアピールする狙いがある」とみている。

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

Text by NewSphere 編集部