詰め込み受験勉強のおかげ? 日本の成人「学力」世界一の理由を海外メディアが分析

 このほど、経済協力開発機構(OECD)が初の国際成人力調査(PIAAC)を実施した。よく知られる、15歳児を対象とする学習到達度調査(PISA)の大人版ともいえる調査で、24ヶ国・地域が参加。「読解力」、「数的思考力」、「ITを活用した問題解決能力」の3分野から出題され、年代ごとに、レベル1未満からレベル5までの6段階で、集計された。

 その結果が、日本とアメリカで大きく明暗が分かれた、と各紙は伝えている。

【2分野で平均得点がトップの日本】
 日本は、3分野の内、「読解力」と「数的思考力」の平均得点が、参加24ヶ国・地域中トップ、「ITを活用した問題解決能力」においては10位を記録した。各国の結果としては、フィンランドは3分野いずれも2位を獲得し、オランダ、スウェーデン、ノルウェイがそれに続く。一方、順位が低かったのは、スペイン、イタリア、フランスで、「IT活用」には参加せず、「読解力」と「数的思考」が最下位に近かった。

 ガーディアン紙は、日本人の学力の高さを、学生時代の知識の「詰め込み」の賜物だと紹介している。

【子どもに基礎を叩き込む? 日本の教育】
 同紙は、日本の学生の優秀さを生み出すものとして、独特の教育システムを紹介している。しばしば機械的な暗記学習に偏りがちで、独創的な思考や実際に役立つスキルよりも理論が重視される傾向が強いとの批判もあるとはいえ、「こうした伝統的なアプローチが他国の学生をしのぐ結果を生んでいるのは確かだ」と評した。

 そのほか、義務教育の長さ、高校段階での「必修科目」の幅広さ、繰り返されるテストが、学生の基礎的な学問のスキルを底上げすると指摘。日本の子どもは、小学校卒業までに1006文字、義務教育終了までにはさらに1130文字の漢字を習得しなければならず、高校に進学すればこれに2000文字強が加わって、初めて、日本で社会人として機能する条件が整うのだと紹介している。

 もちろん同紙は、欠点を指摘するのも忘れてはいない。PISAで高得点を記録する韓国と同じように、塾が多く、受験のために夜遅くまで勉強を強いられる子どもたちにかかる過度のプレッシャー、最低でも6年間の英語教育を積みながら、文法に強くとも「使える」英語が習得できていないことなどだ。さらに、批判的、自立的指向が蝕まれるとの可能性も指摘された。

 とはいえ、今回の結果が、日本人の平均的学力の高さを証明したのは確かで、文科省は今回の結果を、「特筆すべき結果」と手放しの喜びようだ。一方、アメリカの結果といえば――読解力で16位、数的思考で21位、IT活用で14位と、まったくふるわなかった。

【「学力不足」は、世界一位の経済大国を脅かすか?】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、若者層の学力の低さに警鐘を鳴らしつつ、「世界中の同年代のなかで、最も恵まれた高等教育を受けたはず」の中年のアメリカ人すら「真ん中程度」でしかないことに半ば驚きを示している。

 米教育長官のアーン・ダンカン氏も、この結果に、「我が国の教育システムが、より高いスキルを要求するようになっている世界的な経済のなかで、アメリカ人が競争する――あるいは、我が国を主導的な立場に置く――一助となりえていないことを示している」、とのコメントを表明したようだ。

 日本とアメリカについて対照的なのは、「平均点」の内訳。日本の場合、どの科目でも突出して目立つのは、レベル1と、レベル1未満の少なさだという。レベル5だけで見ると、最上位とは言えないが、レベル4~3が目立って多いのが特徴だという。一方のアメリカは、まったく対照的に、レベル5だけで見ればさほど悪くはないのだが、レベル1、レベル1未満の人数の多さが足を引っ張ってしまっている。

 この結果について、識者は2点において、警鐘を鳴らしているという。

 第1には、経済基盤衰退の可能性。「アメリカ経済には、他国の経済よりも、トップレベルの技術が集約し、より大きく、よりフレキシブルであるというアドヴァンテージがあったからこそ、他国から優秀な人材を集めることができた。それが失われつつある」との指摘がなされている。

 そして第2には、社会構造の変化の可能性。アメリカはもともと、他の先進諸国に比べて大きな「格差」を許容してきたお国柄があるが、それはあくまで「上昇志向」があってのことであり、そのための地盤、すなわち「スキル」を失ってしまったのかもしれない、との指摘だ。

 突出した才能は散見されるが、学力的な下層階級が広がりすぎているアメリカに対し、平均的能力は高めだが、突出した才能や、独創性に欠け気味な日本。好結果を残したとはいえ、日本もこうした「課題」を克服する努力をしてこそ、次の結果がついてくるというものだろう。

Text by NewSphere 編集部