安全保障だけではない 脅かされる日本の「経済安保」

Gonzalo Fuentes / Pool via AP

 日本の安全保障環境はいっそう厳しさを増している。昨年、ウクライナ情勢をめぐって日ロ関係は完全に冷え込み、ロシア軍は日本海や東シナ海などで中国軍との合同軍事演習を行うなど、日本を軍事的にけん制している。中国をめぐっては尖閣や台湾で緊張が続いており、北朝鮮は昨年異例のペースでミサイル発射を行った。基本的には今年もこれらが継続する。だが、日本が懸念すべきは純粋な安全保障問題だけではない。経済安全保障の領域でも事態は深刻化している。

◆さらに激しくなる米中経済戦争
 トランプ政権時に始まった米中貿易戦争の激化により、日本国内でも経済安全保障への関心が高まったが、中国は緊張が高まる台湾情勢において、軍事演習やサイバー攻撃、偽情報流布などと同時に経済制裁によって台湾を揺さぶっている。近年、中国は台湾産のフルーツや高級魚ハタ、ビールなどを一方的に輸入停止するなどし、台湾を経済から疲弊させようとしている。

 そして、この問題を背景に米中経済戦争はいっそう激化するかもしれない。習近平国家主席は従来通り台湾を核心的利益と位置づける一方、バイデン政権は台湾を中国の太平洋進出を抑える最前線と位置づけており、双方にとってこの問題は譲れない一線となっている。また、米中双方とも軍事衝突が発生すれば多大な経済ダメージが生じることを理解しており、そうなれば「相手への政治的不満」と「被る経済的大損害への恐れ」というジレンマの間で、経済的な摩擦が激化する可能性がある。

Text by 本田英寿