ゼレンスキー大統領がタイム誌「今年の人」に選ばれた背景とは

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 毎年、その年の出来事に大きく影響を与えた各界の人物や団体などを選ぶ、米タイム誌の「今年の人(Person of the Year)」の企画で、2022年はウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーとウクライナの精神が「今年の人」として選ばれた。その背景とは。

◆タイム誌の「今年の人」
 米タイム誌の年末恒例の看板企画として広く認識されている「今年の人」。この特集は、ニュースの少ない1928年の元旦の週に、当時の編集部がこの時期に取り上げる人物を探すのに苦戦し、前年に影響力のあった人物を取り上げる企画を思いついたことが始まりだ。初代「今年の人」には、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功した、チャールズ・オーガスタス・リンドバーグ(Charles Augustus Lindbergh)が選出され、10年後の1937年には女性初の「今年の人」が選ばれた。1999年にその名称が、「The Man of the Year」から、よりジェンダー・ニュートラルな「Person of the Year」に変更された。

 タイム誌は「今年の人」の定義に関して、「良くも悪くもその年のニュースや人々の生活に最も影響を与え、その年に関する重要なことを体現していた人物」であると説明する。「良くも悪くも」とあるように、「今年の人」は必ずしも名誉あることを成し遂げた人物というわけではない。過去、1938年にはアドルフ・ヒトラーが選ばれ、ヨシフ・スターリンやルーホッラー・ホメイニーなども選出された。

 選出される人物は、米国大統領をはじめ、国家元首であることが多く、複数回選出される事例も少なくない。フランクリン・ルーズベルトは3回選出され、鄧小平やミハイル・ゴルバチョフなども2回選出された。政治家だけでなく、ジェフ・ベゾスやマーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスクなどの事業家も選ばれている。また、「今年の人」という名前ではあるが、選出されるのは必ずしも一人の人物とは限らず、複数人、団体、思想、モノなども対象だ。2014年にはエボラ出血熱に対応した医療従事者、2018年には迫害、逮捕、殺人といったリスクに身をさらして活動するジャーナリストたちが選ばれた。1988年に選ばれたのは、危機にさらされた地球(The Endangered Earth)だ。

 選出プロセスは、基本的にタイム誌の編集部内で進められるが、インターネットの投票結果も考慮される。「今年の人」は、歴史的な記録であり、先の何年にもわたって影響を持ち続けるアーカイブとしての価値も求められるものだと編集部は考えているようだ。

Text by MAKI NAKATA