インクルージョンで注目の22年グラミー賞、現れた変化の兆し

ジョン・バティステ(中央、4月3日)|Chris Pizzello / AP Photo

 現地時間の4月3日、米国音楽界で最も名誉ある表彰イベント、第64回グラミー賞が開催された。例年、映画賞であるアカデミー賞とともに、インクルージョン・ダイバーシティの視点の欠如が指摘されるグラミー賞。2022年はどう変化したか。

◆グラミー賞における人種差別問題
 1950年代にスタートした歴史ある音楽賞であるグラミー賞だが、人種差別的な問題がしばしば指摘されている。昨年にリリースされた研究結果によると、人種差別の疑惑は数字による裏付けもあるようだ。研究は南カリフォルニア大学のアネンバーグ・インクルージョン・イニシアティブ(Annenberg Inclusion Initiative)によるもの。このシンクタンクはエンターテインメント業界におけるダイバーシティとインクルージョンに関する研究プロジェクトを専門としている。『ヒットチャートとグラミー賞のノミネーションにおける黒人アーティスト(Black Artists on the Charts & Nominees at the Grammys)』と題された研究では、2012年から2020年の期間における、ビルボードの人気トップ100(Billboard Hot 100)にランクインした黒人アーティストの数と、グラミー賞の主要4カテゴリーにノミネートされた黒人アーティストの数を比較。この9年間で黒人アーティストはビルボードの38%を占めていたのに対し、グラミー賞のノミネーションは26.7%にとどまった。

 ヒットチャートにおける人気と、グラミー賞におけるノミネーションや受賞のギャップは、グラミー賞の投票プロセスに起因しているようだ。また、ピープル・オブ・カラー(とくに黒人)のアーティストの受賞は、主要4つのカテゴリー以外の、R&Bなど、色付けされた特定のカテゴリーでの受賞にとどまるといった構造的な人種差別も存在する。2017年、誰もがアルバム・オブ・ザ・イヤーとして期待したビヨンセの『レモネード』は、アーバン・コンテンポラリー・アルバムというジャンルでの受賞となった。アルバム・オブ・ザ・イヤーはアデルが受賞。受賞したアデル本人も含めて納得のいかない結果となり、波紋を呼んだ。

 前述の研究結果によると、この9年間で主要4カテゴリーにおいてグラミー賞を受賞した黒人アーティストによるアルバムは4つ。この受賞は白人の楽曲にフィーチャーされた黒人アーティストも含む数字だ。アルバム・オブ・ザ・イヤーに関しては、昨年度までの累計でこの賞を受賞した黒人アーティストは10名のみ。スティービー・ワンダーは3度受賞。ほか、マイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチー、クインシー・ジョーンズ、ホイットニー・ヒューストンなどが受賞。一番最近(2008年)に受賞したハービー・ハンコックのアルバムは、白人のジョニ・ミッチェルのカバー曲で構成されたトリビュート盤のアルバムだ。

Text by MAKI NAKATA