異国で「見えにくいDV」被害の日本人妻……別居後も子とともに続く苦しみ

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 10年前に採択された「女性への暴力およびドメスティックバイオレンス(DV)防止条約」(通称イスタンブール条約)は、ヨーロッパの多くの国々が署名し、女性保護の国際基準とされている。女性に対する暴力を防ぎ、被害者を保護し、加害者に法的な責任を課すことを目指す本条約だが、一部の国が脱退したり批准を拒否したりしている。今後、日本も含めて批准する国が増えることが期待されているが、イスタンブール条約に署名している国々であっても条約の事項が守られず、悲惨な状況に追い込まれている女性たちがいる。西ヨーロッパに住む日本人のカレンさん(仮名)が自分の経験を語ってくれた。

◆妻にモラハラ、子供に身体的暴力を振るう夫
 ヨーロッパ人男性と結婚したカレンさんは、いま別居中で、夫の母国に住んでいる。今年の夏で別居開始から丸4年が経ったものの、夫との関係が改善されず、苦しんでいる。子供のユウちゃん(仮名、現在小学校低学年)も、一時は本人が「パパにいじめられるために生まれてきた」と言うほど追い詰められた。

 カレンさんは、夫婦関係はずっと良好だと感じていた。それが崩れ始めたのは、会社勤めだった夫が起業し、事業が波に乗って成功が形になり始めたころだったという。夫はカレンさんを頻繁に無視するようになって、彼女の作った料理を食べなかったり、(後からわかったことだが)カレンさんの大切な物を隠したり、日本への一時帰国を許さないといった行為を繰り返して支配的な態度を強めていった。

 夫の態度は決して暴力的ではなく、「料理は後で食べる」と言うだけで食べない、言葉遣いも「また物がなくなったの? 疲れているせいじゃないの?」「カレンがもっと頑張れば高収入になって、お金を気にせず帰国できるよ」など優しさが垣間見えるように丁寧だった。それでも次第にカレンさんは自分の意見を夫にはっきり言えなくなり、自分に落ち度があるのだと感じるようになった。

 その後、夫は就学前の年齢だったユウちゃんに身体的暴力(殴るなど)を加えるようになり、カレンさんの心労は極限に達した。暴力をやめるように言っても夫はまったく聞き入れず、カレンさんは「自分に落ち度があるから夫は子供に危害を加えるのだ」と自分を責めてばかりいた。

Text by 岩澤 里美