ケニア国内上映禁止のLGBTQ+映画『アイ・アム・サムエル』、監督は対話望む

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 同性カップルを描いたケニアの映画『アイ・アム・サムエル(I Am Samuel)』が、国内で上映禁止となった。ケニアにおけるLGBTQ+映画の禁止は、今回が初めてではない。2018年にも同性愛を扱った映画『ラフィキ(Rafiki)』が国内で上映禁止となった。クリエイターの意図と当局の見解とは。

◆ケニアのゲイシーンを映し出す映画
 今回ケニア国内で上映禁止の決定が下された映画『アイ・アム・サムエル』は、ケニア出身のピーター・ムリミ(Peter Murimi)監督が手がけたドキュメンタリー映画。2020年のロンドン映画祭にて公開された本作品は、ケニアの地方出身の主人公サムエル・アシリクヮ(Samuel Asilikwa)のアイデンティティをめぐる葛藤、同性パートナー、アレックスとの出会いと関係、地方を離れて都会に出てからの暮らし、地方に残る家族との関係などを描いたもの。5年の年月を経て完成した。

 サムエルは、ケニアの地方の村で生まれ育った。14歳のときに、自分が「ほかと違う」ということを認識したが、家族や村の人々を含め、周りには自分のような人がいないと思い込んで育った。しかし、ナイロビの都会に出て、自分が受け入れられる環境を見つけるとともに、パートナーとも出会う。一方、保守的なクリスチャンで、妻を見つけて結婚することを当然とするなどの伝統的な「男性らしさ」の価値観を持った田舎の実家の両親にとって、息子がゲイであることを簡単に受け入れることは難しい。映画はサムエルの葛藤のストーリーでもあり、サムエルの父親の視点を描いたストーリーでもある。

 ムリミ監督は、自身はLGBTQ+ではないが、親しいゲイの知人が家族にカミングアウトした話に動機づけられて、本作品の構想を進めたという。ドキュメンタリー映画を撮ると決めた後、対象となる人物のスカウトを開始。サムエルとは、スカウトプロセスの初期段階で出会ったそうだ。本作品は、同性愛者に対して法律的にも社会的にも敵対的な環境であるケニアという文脈における、愛とレジエンス、ゲイのケニア人のマインドを描いたものだが、監督にとって、ごく一般的なケニア人を描くことが非常に重要であったという。一般的なケニア人とは、貧しい環境で育ったサムエルのような人だ。ケニア人の大半が貧しい状況にある現状において、大半のゲイのケニア人も貧しい状況にあるが、カミング・アウトしているゲイのケニア人の多くは、中高所得者層の恵まれた人々であるという背景がある。また、サムエルの多層的なアイデンティティを描くことも重要であったとムリミは語っている。必ずしもステレオタイプ的かつ一面的なゲイ男性ではなく、アフリカ(ケニア)人であり、クリスチャンであり、ゲイでもあるサムエルを描くことで、ゲイの人々を一つの箱に押し込めるような考え方に抗う意図があったようだ。

Text by MAKI NAKATA