再燃するウイルス流出説 これまで否定されたのはトランプ氏のせい?

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 ここ数週間で、新型コロナウイルスは動物から人に感染したのではなく、武漢のウイルス研究所から流出したという見方が一気に広がった。実は流出説は感染が始まったすぐ後から出始めたが、これまで表立って支持するジャーナリストや研究者はいなかった。そこには、結果的に健全な科学的議論を封じることになった、政治的、倫理的な背景があると指摘されている。

◆軽んじられた流出説、今年になり再浮上
 ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、武漢のウイルス研究所からの流出を疑う説は2020年の1月から囁かれている。当初は、中国の生物兵器プログラムとの関連性を指摘した陰謀論が多かったが、次第に実験室での事故による流出の可能性が指摘され始め、それをサポートするさまざまな仮説も出ていた。

 しかし、流出説は表舞台で無視され続けた。流出説に光が当たった一つのきっかけは、世界保健機関(WHO)の新型ウイルスの起源を探す現地調査だ。2月に発表された報告書は、十分なデータがないにもかかわらず、研究所からの流出はほぼないと結論付けた。これに懸念を示す著名な研究者たちが科学雑誌サイエンスに書簡を発表。調査の欠陥を指摘し、再調査を求め注目された。

 5月初めになると、元ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の科学ジャーナリスト、ニコラス・ウェイド氏の記事がミディアムに発表された。ウイルスの人への感染力を増強する「機能獲得型」の研究が武漢で行われ、何らかの形でウイルスが実験室の外に出たという流出説の根拠を詳細に示し、大きな話題となった。そして5月後半にウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、2019年11月に武漢のウイルス研究所の研究員が深刻な体調不良で通院していたというスクープを報じ、流出説の信ぴょう性が一気に高まった。

Text by 山川 真智子