世界で「ワクチン・パスポート」導入の動き 利点と懸念点は?

アプリ「コモンパス」の画面|Michele Ursi / Shutterstock.com

 世界で新型コロナウイルスのワクチン接種が進むなか、ワクチンパスポートの構想も話題になっている。ワクチンパスポートとはワクチン接種のデジタル証明で、取得者に限って、文化イベント参加やレストランでの食事、隔離なしでの移動などができるとするものだ。国によって「衛生パスポート」「グリーンパスポート」「免疫パスポート」などと呼び名はさまざまだが、構想はほぼ同じである。アイスランドは世界に先駆け1月21日から交付を始めており、イスラエルも保健省が1月4日にその概要を発表した。EU内では、ギリシャ首相による1月12日の提案を受け、1月21日に27ヶ国代表のオンライン会議で話し合いが行われたが、意見の一致には至らなかった。それはなぜか? ワクチンパスポート導入の利点と難点を、今後の見通し、世界の動きとあわせて整理したい。

◆ワクチンパスポート導入の利点と懸念点
 ワクチンパスポート導入の利点は、なんといっても世界の多くの国で営業休止状態が続いている飲食業、文化・スポーツ施設、イベント業などの営業再開が可能になることだ。ホテルや交通機関、観光業の活性化にも繋がり、停滞する経済を大きく引き上げると期待される。また、外出禁止をはじめとするさまざまな罰則を伴う制限策に疲弊している国民に、精神的な面でも希望と安心感を与えることになるだろう。さらに、仏紙ロピニオンの副編集長が言うように「ワクチン接種を奨励する強力なツールになる」ことも期待できる。

 そう聞くといいことずくめのようだが、導入に慎重な意見もある。欧州委員会のマロシュ・シェフチョビッチ副委員長が「我々はいかなる場合においても、ワクチン接種を受けたくない、あるいは医学的理由などで受けられない人々が、その権利と自由を制限されるような状況を作り出すつもりはない」(20 minutes、1/18)と強調したように、とくにEUでは、個人の自由を保障できるかどうかが焦点となっている。また、「ヨーロッパの市民間の差別につながってはならない」(同)というベルギーのソフィー・ウィルメス外相の意見にみられるように差別への懸念も大きい。

 科学的理由も挙げられる。フランスの薬物透明性観測所(OTMeds)のジェローム・マルタン氏が指摘するように「現在承認されているワクチンに関しては、感染の重症化を減少させる効果がわかっている。しかし、いまのところ、感染そのものを防ぐかどうかはわからない」(20 minutes、1/17)からだ。ドイツのミヒャエル・ロート欧州担当国務大臣も「ワクチン接種者は、ウイルスを感染させなくなるのかどうか」に疑問を呈し、ワクチンパスポートの詳細を検討するには「時期尚早」だと表明した(20 minutes、1/18)。さらに、フランスの疫学者であり同国の抗Covid-19ワクチン接種コーディネーターでもあるアラン・フィッシャー教授は、ワクチン接種の効果が続く期間がいまだ明らかでないことから、ワクチンパスポートは「偽の安心感」を生み出してしまうとも指摘する(BFMTV、1/8)。

 国際的な格差の広がりも懸念のひとつだ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルらの昨年12月の見積もりによれば、貧困にある70ヶ国では、2021年末までに10人に1人しかワクチンを受けることができないのに対し、裕福な国々は、現在臨床試験中のすべてのワクチンが承認されたとすれば、2021年末までにその人口の3倍のワクチンを購入できるという。つまり、貧しい国はCovid-19から簡単に身を守ることができないのに加え、ワクチンパスポートが導入されれば、裕福な国の人々が移動を許されるときにそれが許されない、という不公平な事態になることが予想される。

Text by 冠ゆき