インドがRCEPから離脱した理由、復帰の可能性は? モディ政権の方針転換

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 2012年11月の交渉開始宣言から8年、日本と中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の15ヶ国が「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」協定に署名した。発効すれば、世界の人口および国内総生産(GDP)の約3割を占める世界最大級の自由貿易圏が誕生することになる。日本にとっては中国、韓国と結ぶ初めての経済連携協定でもあり、新型コロナウイルスのパンデミックによって冷え込んだ経済を活性化させる役割が期待されている。

 一方で昨年11月に同交渉から離脱したインドは、最後まで交渉のテーブルに戻ることはなかった。今回合意した協定には、インドが早期復帰できる特別措置も設けられており、日本をはじめ、加盟各国はインドの復帰を促していくとも言われているが、現状、インドの復帰には期待が持てない状況だ。インドがRCEPから離脱した理由をあらためて振り返るとともに、復帰の可能性を探ってみたい。

◆自由貿易協定締結も拡大するインドの貿易赤字
 インドがRCEP交渉から離脱した理由は複数あるが、政府が何度も声高に主張してきたのは、RCEPの関税撤廃・削減により、安価な輸入品が大量に流れ込み、自国製造業や農業・畜産業、雇用などに悪影響を与えるという点だ。

 モディ政権は自国製造業振興政策「メイク・イン・インディア(Make in India)」に加え、コロナ禍の5月には輸入品への依存度を下げ、輸出を促進するイニシアチブ「自立したインド(Atmanirbhar Bharat)」を発表しており、RCEPへの加盟はこうした方針に反すると業界団体から圧力を受け続けてきた。

 貿易赤字も懸念材料で、インドはRCEP加盟15ヶ国の内、日本や韓国、ASEANなどとすでに自由貿易協定を結んでいるが、多くの国との間に貿易赤字を抱えている。自由貿易協定を結んでいない中国との間には毎年500億ドル前後(17/18年度は600億ドル超)の巨大な貿易赤字が発生しており、不均衡な貿易収支はインドの保護主義を強める要因となっている。

Text by 飯塚竜二