米最高裁判事の後任めぐる攻防、注目の理由 トランプ氏が保守派判事を指名
がんを患い長年入退院を繰り返しながら職務を続けていたルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が9月18日、87歳で死去した。同判事が最近病気がちであることは周知の事実だったが、まさかこのように突然亡くなる予想はされておらず、同判事の死が公表されるとアメリカ中が愕然とした。ギンズバーグ判事は臨終間際、家族に最期の願いとして「新しい大統領が就任するまでは、(最高裁の)空席を埋めないことを強く願う」と言い残したという。アメリカでは、最高裁判事の空席ができた場合、大統領が次期判事を推薦し、上院議会が任命を投票で決定する権利を持つが、ギンズバーグ判事はトランプ大統領にその権利を行使しないで欲しいという遺言を残したのである。同判事のこの言葉には、2016年と現在のアメリカにおける深く複雑な政治的背景が隠されている。
◆共和党、4年前の姿勢を一転して最高裁判事任命へ
アメリカでは最高裁判事職が終身制であり、年齢や健康上の理由などで自ら引退するか、または死去するまで空席が出ない。空席が出た場合、現職大統領が新しい判事を推薦し、推薦を受けた人物に関する公聴会が上院で行われ、そのうえで投票が行われて、任命されるか否かが決定される。現在、上院では共和党が過半数を得ているため、来年1月以前に投票が行われれば、大統領が推薦する人物が新しい最高裁判事となる可能性が高い。
判事は個人的意見ではなくアメリカの法律を元に判断を下すべきであるから、本来ならば判事の思想や政治的見解は関係ないはずだが、現在の最高裁では保守派の判事とリベラル派(あるいは中道派)の判事に分かれており、現職大統領が所属する党の特徴によって新しく任命される判事の見解が決定されることが多い。ちなみに、ギンズバーグ判事は1993年に当時のビル・クリントン大統領(民主党)によって推薦され任命された。
CNNによると、2016年2月、保守派のアントニン・スカリア判事が死去した際、当時のオバマ大統領がワシントンDCで連邦控訴裁判所の首席判事を務めていたメリック・ガーランド氏を最高裁判事として推薦。しかし、当時も共和党が上院過半数を握っていた状態で、ミッチ・マコネル院内総務をはじめとする共和党員はいっせいに「大統領選の年に新しい最高裁判事を任命すべきではない。新しい大統領が就任してから推薦すべき」と反対。大統領選まで9ヶ月あったのにもかかわらず、ガーランド判事のために公聴会を開くことさえ拒否した。
しかし、2020年の大統領選まであと6週間というタイミングでリベラル派のギンズバーグ判事が死去するやいなや、保守派判事を任命したい共和党は手のひらを返したように「大統領には新しい最高裁判事を推薦する権利がある」と主張。NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)によると、トランプ氏はギンズバーグ判事が死去する前の9月10日に「次期最高裁判事推薦リスト」を発表していた。大統領選前に保守派判事を任命し、トランプ氏を支持していなかった保守派や、右派寄りの無所属派から支持を獲得するまたとない機会だと思っているようだ。
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