気候変動に立ち向かうインドの若者たち ー環境に優しい社会をめざしてー

インドのマハーラーシュトラ州ナッザー村でクレイジュエリーを作る村人たち 写真:Karishma Venkiteswaran 許可を得て使用

著:Vishal Yashoda 多くの国民が、気候変動による悪影響を受けているインドでは、炭素排出量を減らし再生可能エネルギーに切り替えるために、国をあげての努力がなされている。特に郊外では、多くのインド人が気候変動による悪影響に直面している。気候変動による影響は、高レベルの人為的汚染、急速な工業化、および環境破壊によって悪化している。世界中の学生が集結し気候変動に対するより良い方策を模索している中で、筆者はインドの農民、専門家、若者主導のグループ、そして気候変動に対する革新的な方法を探す社会起業家に話を聞いた。

 2018年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、現在の地球温暖化の流れを逆転させなければ悲惨な結果になるという。そして、インドやパキスタンを含む南アジアの国々は深刻な影響を受けると警告している。これらの国々ではすでに森林の喪失、気温上昇、何千もの命をおびやかす熱波、そして海面の上昇に直面している。長い海岸線のあるインドでは、何百万もの人々が海で生計を立てており、彼らは沿岸近くに住んでいるので、特に影響を受けやすい。

 インドは、排出量をコントロールすることで気候変動を緩和する必要に迫られている。そして、酷くなる水不足、干ばつ、洪水、サイクロンなどの自然災害による若者の死を減らす策も必要であると、国連は報告している。「地球環境概況」という報告書は、貧困、病気、汚染における豊かな国と貧しい国の差は広がっていると示唆している。

マハーラーシュトラ州の西部でインドの農民が自らの農作物を眺めている。彼女はしばしば洪水に悩まされている。
写真:Karishma Venkiteswaran 許可を得て使用

農家への影響

スニル・パティルは44歳のインド人の農民だ。彼の作物は季節外れの雨や、あられを伴う大嵐、空気汚染の被害に遭っている。彼にとって気候変動は深刻な問題だ。インドの西部にあるマハーラーシュトラ州に20エーカー(訳注:約8ヘクタール)の土地を持つパティルは、気候変動によって収入が減少したと話す。環境のせいで、子どもが教育を受けることもままならず、より貧しくなってしまった。 筆者は第2世代の農民であるパティルと、以下のように語り合った。

私はサトウキビの栽培を一切やめました。水に左右される上に、このナーシクという地域には干ばつがあります。ここでの農業は自然を相手にしたギャンブルのようなもので、多くの農家が損失を被りました。解決方法を模索していますが、この状況は変わりません。気温上昇に対処し、そして化学物質を使いすぎないようにするために、まずは政府が私たちを教育する必要があります。

 社会起業家のアカンシャ・シンが、インドのマディヤ・プラデーシュ州にあるジャブアという小さな村を訪れたとき、インドの内陸部での社会的・経済的な格差を目の当たりにした。既に気候変動に悩まされていた農家たちは、収穫量を上げるためにより濃度の高い農薬や肥料を使っていた。そのせいで、地元の土壌に悪い影響が及んでしまっていた。

 ある光景を目にした、とシンは言う。村人が牛糞の固まりを調理用燃料に使い、その結果発生した有毒ガスを吸い込む様子だ。このガスは環境も汚染する。この悪循環を断つために彼女はスワヤンブーという社会的企業を設立した。この企業はバイオガスプラントを建設し、生態系の被害を元に戻すために、より安い燃料とバイオマス発電による電気、バイオ肥料、そして生物農薬を提供している。シンは下記のように語っている。

インドにはバイオガスの原料が豊富にありますが、その利用は遅れています。そして天然ガスやその他の環境汚染源となる燃料を輸入しています。私たちはあらゆる機会に、炭素使用量の削減およびメタンガスの発生抑制について農民の関心を高めるようにしてきました。そして私たちは、よりクリーンな電力源および燃料を提供してきました。

 バイオ肥料を使用することで、農家はより良い作物を手に入れると同時に、土壌のpHレベルをゆっくりと逆転させることもできたとシンは言う。

 インド農村アーカイブス(PARI)の創設者であるP・サイナートはこう話す。

インドでは、多くの地域で農民が気候変動による深刻な被害に苦しんでいます。状況はかなりひどいもので、過去15年で天災は極端に増加しています。しかし、自然のせいにすることはできません。人間こそが土壌や地下水、森林に相当な被害をもたらしているからです。

若者のネットワークが動き出す

 13億人もの人々が住むインドは、若者の占める割合が高いにも関わらず、雇用の機会が不足している。気候変動への意識も低く、政府の取り組みも遅れており、それらが環境への被害につながっている。これらの問題を、若者のネットワークが解決しようとしている。

 気候変動への意識を高めるために、ニューデリーを拠点とするIYCN(気候変動に対して活動する若者中心のNGO)はワークショップやキャンペーンを行っており、地域チームを始動しようとしている。農民、部族、都市中心部にまで影響を与え、インドの奥地全体で激化する気候変動に関連する問題に対処するためだ。IYCNのマニッシュ・ゴータムはこう話す。

ワークショップでは、気候変動に関する基本的な専門用語を使ってCOP (締約国会議)の交渉について説明し、より多くの若者を巻き込もうとしています。 2014年には、気候変動と青少年に関する調査についても9回のワークショップを開催しました。

ゴータムはこう続ける。

私たちは多くの組織と共に、さらなる取り組みやワークショップ、コラボレーションを計画しています。 しかし、インドでは問題がますます複雑になっているので、より多くの若者に参加してもらい、規模を拡大する必要があります。

大規模で革新的な解決策

 報告書によると、インドで気候変動のゴールを達成するには1兆ドルが必要だという。資源は少ない上に、人口が多いからだ。この天文学的数字が問題の大きさを表しているが、インドの首都であるニューデリーの悪夢のような大気汚染に対して、あるスタートアップ企業は新たな技術を革新的な解決策に生かそうとしている。

 ニューデリーに拠点を置く新興企業、チャクル・イノベーションズは、スモッグと大気汚染物質をインクに変換している。また、煙を発生させる機械を利用して最大90%の有害汚染物質を回収している。

 他のインド企業であるセルコ・インディアは、汚染を減らす持続可能なエネルギー源を築くことをめざしている。そして、太陽光発電のランタン、ライト、マイクログリッド、および調理用コンロを農村の住人に提供することで、インドの既存の太陽光発電容量を増やすことに成功してきた。

人々と共に忍耐強く気候変動に取り組み、そして効率的にエネルギーを提供したいと考えています。これで人々はより幸せになれるはずです。

 もう一つのスタートアップ企業、レッツ・リサイクルは、インド西部のグジャラート州で革新的な取り組みを行っている。それは廃棄物の発生パターンと収集パターンとをわかるようにするという取り組みである。そしてこの取り組みでは、廃棄物の再利用に重点を置き、多くのゴミ収集の人々に賃金が発生するようにしている。ネプラやレッツ・リサイクルのCEO、サンディップ・パテルはこう話す。

私たちはアーメダバード全域の廃棄物発生のパターンを地図上で把握する技術を使用し、効率的に廃棄物の再生利用を図るように努めています。こうすることで、気候変動への取り組みをしたいと考えているのです。そしてさらにこの運動をインド全土に広げたいと考えています。

 気候変動への取り組みと、気候変動が及ぼす影響を市民に周知するというタスクは、インドにとって大切なものだ。上記のグループや企業は、避けて通ることのできないこれらの課題に対して革新的な取り組みを行っている。


This article was originally published on Global Voices(日本語). Read the original article.
Translated by Ayumi Oda.
Proofreading:Masato Kaneko

Text by Global Voices