アクティビストCEOって何のこと?
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トランプ時代になって、企業が政治的スタンスを表明することが増えてきたと前回書いたが、この流れに付随して最近よく耳にするようになった言葉に「アクティビストCEO」というものがある。政治的・社会的なスタンスを明確にする経営陣のトップが増えていることから登場した言葉だ。
アメリカの経済界は従来、政治的立場を表明することを避ける傾向があった。そこには、企業が優先すべきは株主の利益であるという考え方が理由としてあったし、政治的立場が違う、または中立の消費者を遠ざけるリスクを避けたいという意図もあっただろう。企業の社会的責任を果たすためには、税金対策の意味合いをも持つ財団や基金が存在したし、政治家に影響力を及ぼすためには、ロビイストを雇う、政治家に献金するなどの手段があった。
「アクティビストCEO」のパイオニアといえば、パタゴニアのイヴォン・シュイナードだ。パタゴニアを1973年に創業して以来、「アクティビズム・カンパニー」を自認し、顧客に対して環境問題についての啓蒙活動を重ねてきた。2011年の年末商戦にはあえて「このフリースを買わないでください」という広告キャンペーンを行ない、消費主義への警鐘を鳴らした。最近では、フリースの洗濯による水質汚染について自ら行なった調査結果を発表したり、洗濯用のネットを販売し始めたりと、独自の環境対策を打ち続ける一方で、昨年、オバマ前大統領がユタ州のネイティブ・アメリカン居留区の中に国土保全のために 制定したベアーズ・イヤーズ・ナショナル・モニュメントをトランプ政権が縮小すると発表した際には、真っ先に政府を訴えるなど、ますます政治的なエンゲージメントを強めている。また同時にパタゴニアは、トランプ政権の方針を支援したユタ州への抗議として、これまで州都ソルトレイクシティで行なわれてきた世界のアウトドア業界が集結するトレードショー〈アウトドア・リテーラー〉をボイコットすることを発表し、これを受けて〈アウトドア・リテーラー〉はコロラドに移転した。
企業のトップがこうしたアクティビズムに関与することは、これまではパタゴニアに代表されるような一部のプログレッシブ企業に限定されるものだったが、より一層分断が進むアメリカでは、シュイナード氏に続く企業トップが増えてきた。ゲイであることを明らかにしているアップルのティム・クックCEOがLGBTQの、フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOOが女性の権利拡大運動にそれぞれコミットしていることもその一例である。また、保守の支持基盤であるノースキャロライナ州が市民に「出生届けに記された性別に従ったトイレを使用すること」を義務付ける州法を施行した際、それまで特に保守的だと思われてきた金融業界から、バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEOやペイパルのダン・シュルマンCEOなどが同州での事業計画を変更する措置を取ったことも、旧来の経済界の慣習と袂を分かつ決断としてニュースになった。
アメリカの所得分布を見てみると、赤い色で示される共和党の支持基盤の州よりも、青色で表現される民主党の支持基盤の州のほうが所得が高い。また世代的に見ても、これからの消費を支えるミレニアルより若い層においては、民主党の支持率が圧倒的に高い。そのため、こうした企業文化の政治・社会的シフトを単なる「マーケティング戦略」と呼ぶ声もあるが、実はそこまで単純な話でもない。
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