「完全奪還」でイスラム国の脅威は消えたのか? 地図では見えない脅威の本質

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 米軍が軍事的支援を行うシリアのクルド人主体の「シリア民主軍(SDF)」は3月23日、東部バグズをイスラム国(IS)から完全に奪還したと宣言した。バグズはISが占拠する最後の拠点とされてきた。SDFの報道官も同日、ツイッター上で、「ISの唱えるカリフ制国家は排除され、ISの敗北を宣言する」と発表した。しかし、似たような宣言は過去にも幾度か見られた。

◆繰り返される勝利・奪還宣言
 ISは2017年7月、指導者バグダディ容疑者が2014年6月にISの建国を高々と宣言したイラク・モスルを奪還され、また同年10月には、自らが首都と定めてきたシリア・ラッカを失った。両都市はISにとって象徴的な意味もあることから、大きなターニングポイントとなったことは間違いない。だが、それ以後、何をもって「勝利」、「敗北」なのかがよく見えない。

 それから3ヶ月後の12月9日、イラクのアバディ首相は、「シリア国境付近の砂漠地帯で続いた戦闘に勝利し、イラクはISから完全に解放され、ISとの戦いに勝利した」と高々に宣言した。また、同月7日に、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は、「シリアは全土でISから完全に解放された」と発表している。

 最近でも、米国のトランプ大統領は今年2月6日、「ISの掃討作戦で、来週にはISの支配地域100%奪還を正式に宣言できるだろう」との見解を示し、3月1日には第2回米朝首脳会談から戻る途中に立ち寄った米軍アラスカ基地で、「イラクとシリアでISに勝利し、支配地域を100%奪還した」と誇らしげに演説した。一方、米国防総省は今年2月4日に公表した報告書のなかで、「米軍が撤退したらISは6ヶ月から12ヶ月以内に勢力を盛り返し、複数の地域を奪還するだろう」と警告している。

 なぜ、このような似た宣言が繰り返されるか? 政治的パフォーマンスである部分やイラク・シリアの統治力の問題もあるだろうが、一つにISという脅威が国家と違い、見えにくく、組織としてだけでなく、イスラム過激派や支持者たちのなかで、一種のブランド、もしくはほかを引き付ける求心力として機能していることがある。

Text by 和田大樹