素材のことを考える 1

Photo by Trisha Downing on Unsplash

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「エシカル」「サステイナブル」と呼ばれる物の作り方の軸のひとつに生産過程があることは、前回書いた。特に繊維が糸から織られるプロセスに、人体や自然に有害な農薬または化学染料が使われていないかといったことに気を配るのが、エシカル・ファッション時代の新たな価値基準のひとつになっている。逆に言うと、テキスタイルの生産がアパレル業界による環境破壊のかなり大きな部分を占めるようになっていた、ということでもある。とはいえ、一枚の衣類を手に取るときに、タグに表記される素材の内容を確認し、その意味を考える人間がどれだけいるだろうか。

 紀元前に人間がリネン(亜麻布)の繊維を考案して以来、何千年ものあいだ、人間が身につける繊維は、天然の植物や動物の毛のみで作られていた。人間たちが知恵を使って生産方法を編み出した植物繊維には、綿花や麻から紡いだ糸を織ったコットンやリネンがあり、動物繊維の代表的なものには蚕が作る繭から取れるシルクや、動物の毛を使った各種のウールやカシミアなどがある。

 1930年代頃から、人工の繊維、いわゆる化学繊維が一般的に流通するようになった。天然の素材に比べ、安く、早く作ることが可能なうえに、扱いやすく、比較的簡単に品種改良できる人工繊維はあっという間に普及し、そこには特に、途上国や貧困地域に安い衣類を提供することを実現したというポジティブな側面もあった。

 化学繊維による環境へのインパクトがとりわけ注目されるようになったのは、ここ数年のことのような気がするが、最大の問題は、溶けないために土に還らない(バイオディグレーダブルではない)というところである。人工的な繊維は、捨てられると埋立地に行くしかない。一人の人間が購入し、一定の期間、着用したあとで、飽きたり、着古したりして捨てる化繊の衣料の量を想像すると、環境へのインパクトが甚大な規模になるということは、理解してもらえると思う。

 しかし問題はそれだけではない、ということが最近わかってきた。1990年代から素材の再検討やリサイクル、リユースに乗り出し、環境志向を消費活動に取り組むことを提唱してきたアウトドアブランドのパタゴニアが2018年に発表したレポートは、衝撃的だった。

 カリフォルニア大学サンタバーバラ校の環境微生物学者パトリシア・ホルデン博士に依頼してまとめた、「マイクロファイバー汚染とアパレル産業」という報告書を発表するに際し、パタゴニアは「海の極小プラスチック繊維について私たちが知っていること」というリリースを発信した。使い捨てのプラスチックが海洋環境に与える影響を指摘したうえで、自社の製品もまた、水の汚染に貢献していることを名言したものだ。

「包装はこの問題の最大の要素ではありますが、プラスチック汚染の唯一の原因ではありません。最近焦点が当てられているのは、化粧品や歯磨き粉やその他の消費者製品に入っている、汚水処理工場でフィルターされるには小さ過ぎるマイクロプラスチック・ビーズという極小のプラスチック粒子の禁止、または使用停止の提唱です。これらは私たちの洗面台やシャワーから出て処理工場を通過し、海に流出して、ウミガメ、海鳥、そして魚(そしてひいては人間)の体内に入り込みます。

 マイクロプラスチック汚染には化繊の衣類のマイクロファイバー(長さ5ミリ以下)も含まれます。それはポリエステルのフリースやナイロン製ショーツ、その他広範囲に及ぶ種類の衣類を洗濯する際に抜け落ち、処理工場のろ過システムを通過してしまうものです。これら化繊のマイクロファイバーは海、海岸、川、湖などに放出されてしまうことがあり、その一部は土壌にも至ります。処理工場で廃液からうまく分離されたマイクロファイバーも、土壌肥料として使われるスラッジ(沈殿物=筆者注)に残っているからです。これは製造する衣類の多くが化学繊維製のものである私たちにとっては、ことに急所を突く問題です」(出典:パタゴニアの公式サイト | 2016年7月14日)

Text by 佐久間 裕美子