ドイツ東部で移民排斥の極右デモが激化 ナチス式敬礼も 難民による殺人事件が発端

AP Photo / Frank Jordans

 外国人による殺人事件を受けて移民排斥の抗議運動が行われるなか、ケムニッツ市長は8月31日、外国からの訪問者、学生、投資家に対しドイツ東部にあるケムニッツは安全だと呼びかけた。しかしその一方で、当局は週末のデモに備えた。

 8月27日の抗議運動で「外国人は出ていけ」と叫びつつ、腕を伸ばして「ヒトラー式の敬礼」ポーズをとるネオナチ集団の模様が外国メディアで報道されていたこともあり、現地企業のほか外国人留学生が多くを占めるケムニッツ工科大学関係者の間では懸念が広がっていた。

 バーバラ・ルートヴィヒ市長は、石畳の広がる中央広場で記者に対して「現時点では、様々な面で不確実性と恐怖がみられる」とコメントした。「ケムニッツには外国から来た学生や投資家の居場所があり、ここは安全であることを明らかにしていく予定」だとした。

 抗議活動の進展を受け、スイス外務省はすでにドイツに旅行する市民に対し渡航上の注意喚起レベルを引き上げている。ケムニッツ市を名指ししているわけではないが、「ドイツの大都市ではデモ活動が活発化しており、暴動が起きる可能性もある」としている。

 抗議活動の発端は、35歳のドイツ人ダニエル・ヒリッグ氏が8月26日早朝に刺殺された事件だ。イラク出身の22歳、シリア出身の23歳の男2人が容疑者として逮捕された。

 この殺人事件と後に続く社会不安により、メルケル首相が3年前に数十万人もの移民受け入れを表明した政策に対してくすぶっていた論争に火がついた。国民の許容水準を超えた流入により、資源やホスピタリティーに負荷がかかっていた。

 ケムニッツ市が属するザクセン州は、反移民感情が特に強い地域とされる。近隣の州都ドレスデンには「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者(PEGIDA)」が本拠を構えている。また、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」は昨年の総選挙でザクセン州において約25%の得票率を獲得した。

 AfDはケムニッツの移民反対者による抗議活動を公然と支持しており、1日に同市で行われたデモ活動を組織化している。

 その戦略は実りつつあるようだ。公共放送ZDFで8月31日に放映された世論調査によると、全国におけるAfDの政党支持率は昨年選挙時の13%から17%に上昇した。
 
 しかもAfD支持者の65%が、極右集団は民主主義にとっての脅威ではないと考えているという。8月28日から30日にかけて実施され、無作為抽出された1,216人を対象とする電話調査によると、他政党の支持者は極右集団が民主主義にとっての脅威であるとしている。

 週末の抗議活動に備えるため、ザクセン州当局は連邦警察に応援を求め、ありとあらゆる関係者が抗議活動への対応のため警察に召集された。その影響で、9月1日にドレスデンで行われる予定だったサッカー2部リーグの試合が中止となった。警備員不足がその理由だが、極めて珍しいことだ。

 こうした短期の影響は、反移民の感情がこの地域一帯に及ぼす中長期の影響と比較すると限定的のようだと、専門家は話している。

 半導体メーカーのグローバルファウンドリーズは経済日刊紙ハンデルスブラットに対し、ザクセン州には芳しくない評判があるため、有能な外国人労働者を確保するのが困難になっていると述べた。

 同社広報担当のジェンス・ドリュー氏は記者に対し、「外国人エンジニアに対し、ザクセン州に家族を連れてきても大丈夫と説得するのは難しい。ドレスデン近辺は安全で、子どもは1人で学校にも行けるし、頭にスカーフを身につけてもひどい扱いを受けないと説明しなくてはならない」と語った。

 8月31日には、31歳のドイツ人男性が有罪判決を受けた。容疑は爆発物を使った殺人未遂、ドレスデンのモスクで起きた2016年の放火未遂だ。プライバシー保護法により名字は明らかにされない犯人、ニノ・Kは懲役9年8ヶ月の実刑判決を受けた。

 裁判中、イスラム教イマーム指導者の家族が襲撃により負傷しなかったのは、まったくの偶然だったと専門家は証言した。

 人口25万人のケムニッツ市では、産業振興のために有能な外国人労働者を特に必要としている。最近改装され、ドイツでも外国人留学生の割合が最も高い工科大学は抗議活動を受け、殺人事件と「いわれのない外国人嫌悪、民族主義的な攻撃、過剰反応、暴動」に対して遺憾の意を表す声明を発表した。

 社会心理学を専門とし、過激派イデオロギーの因果関係を分析しているフランク・アスブロック教授によると、ネオナチ集団はソーシャルメディアを駆使してドイツの人々の間に広がる全体的な不安と恐怖の感情に入り込んだという。それにより抗議者が当局の予想を上回る規模にまで拡大した。

 懸念を表明できる機会がないと考えている有権者に、その機会を与えることで主流派の政党は事態を切り抜けられるとアスブロック教授はみており、「この人たちを極右のポピュリスト政党に向かわせてはいけない」と言った。

 3年前、10代のときにシリアからドイツにやって来たレバル・アルコルディ氏は、ケムニッツにいると敵意を感じることがあるという。「私たちに危害を加えたい人がいることが少し心配でした」と、抗議活動が行われた日は外出しないことにしたという。

 市の中心街で雑貨店を営む父親のエーマド氏は、極右集団など恐れていないという。

「私たちは母国での戦時中、いまよりもっと厳しい状況から逃れてきました。とりわけ私たちは外国人で、この国では新参者と思われているので、用心しなくてはいけません。だからこそ、外国人は心穏やかに、国の法律を守るということをしっかり行わなければならないのです」と同氏は語った。

By FRANK JORDANS, Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP