睡眠障害は遺伝子の影響を受けているが、治療法は存在する
Shutterstock.com / Photographee.eu
著：Alice M Gregory（ゴールドスミス・カレッジ、Professor of Psychology）
重度の不眠症に苦しむ人もいれば、周囲の環境に関わらず、何の苦もなく入眠できる人もいる。このような睡眠に関する違いを最も明快に説明できるのは、人々がそれぞれ直面している環境面の問題だろう。職場での絶え間ないストレス、人間関係のもつれ、もしくは悪い知らせを受けることは、眠れない夜につながる人生における数多くの試練のいくつかに過ぎない。
人生における様々なストレスの高い出来事が睡眠障害に関連していることは驚くに値しない。我々の思考や行動といった不眠への対処は、問題を長引かせてしまう可能性もある。ベッドに横たわってなんとか眠ろうとしたり、眠れないことを大惨事のように思い悩んだりすることは何の役にも立たない。
多くの双子に焦点を当てた研究は、人によって睡眠の質が異なる理由として重要なのは環境要因である、という考えを裏付けている。しかし、それらの研究は、睡眠の問題に遺伝性があることも浮き彫りにした。つまり、もしあなたが不眠症に悩んでいるとしたら、おそらくあなたの両親や祖父母も不眠症を患っていたであろう。その理由を考えてみると、健全に眠ることができる能力に関しては、どうやら我々の遺伝子が鍵になるらしい。
睡眠の科学に関する新著、『Nodding Off』で私が執筆したように、我々は、どの遺伝子が重要なのかについて、常に学び続けている。そして最近、睡眠に関する非常に大規模な研究がいくつか実施されている。例えば、百万人以上を被検者としたある研究では、不眠症に関連する遺伝的な変異が特定され、不眠症が発症する生物学的な経路についての深い知見が得られた。
睡眠障害を引き起こす潜在的な原因はこれよりさらに複雑であり、遺伝子の働きと環境の影響が密接に関連している、という考え方がしばしば提起されてきた。一例を挙げると、ある人々は、遺伝子的な理由により、特定の環境的経験（仕事のストレスなど）にさらされやすい。こういった経験への感受性（気になって夜中ずっと起きている、など）もやはり遺伝子の影響を受けている。また、遺伝子と環境が相互作用している別の事例として、「遺伝学を超越する」という意味の後成的遺伝学が挙げられる。我々の遺伝子は不変だが、（スイッチの「オン・オフ」や、減光スイッチの「増灯・減灯」のように）それらが我々にどの程度影響を与えているのかは、環境の影響を受けている可能性がある。
◆睡眠障害は治療できるのか？
それでは、睡眠の問題を解決する上でこれらはどういった意味を持つのだろう？人によって睡眠の質が異なるのは遺伝である、という発見は、一部の人たちは快眠できない運命であり、対処法がほとんどない、という印象を与えてしまうかもしれない。しかし、ありがたいことに、そうではない。
行動遺伝学を学ぶ生徒たちが最初に習うことの1つは、何かが遺伝子の影響を受けているからといって、環境の変化で解決できない、という事実である。ここでよく引き合いに出されるのがフェニルケトン尿症（PKU）である。これは、（特定の食品に含まれる）フェニルアラニンという物質を体内で分解できずに蓄積してしまい、脳の損傷につながる可能性がある疾病である。この疾病は先天的なものだが、治療のカギは患者の置かれた環境にある。食事を注意深く管理することで、この疾病のもたらす悪影響を防ぐことができる。
睡眠に関する考え方や（リラクゼーションの要素を含め、目が覚めたまま長時間ベッドに横たわらないようにする）行動改善を行う不眠の認知行動療法（CBT-I）は、慢性的な不眠症に苦しむ人々にとって最善の初期治療方法であることは明らかだ。
しかし、人それぞれの睡眠の違いをより深く理解することは、結果として不眠症の治療にもおおいに役立つことだろう。現在、パーソナライズされた医学への研究関心が高まっており、最終的には個々人に細部まで適合した治療法が編み出されることが期待されている。
誰ひとりとして、不眠症はただひたすら我慢するしかないものだ、と感じるべきではない。もし睡眠障害に苦しんでいるなら、医師に相談し、睡眠の専門家を訪ねよう。オンラインで利用できる様々なCBT-Iコースが開発されて試験運用されており、実際に効果が確認されたものもある。不眠症の原因が何であれ、快適に入眠できるようになる手助けは必ず存在する。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
あなたにおすすめの記事
◆ネムリスの評判を徹底調査！副作用、口コミは？
