日本の軽自動車は欧州で売れるのか 小型EV需要拡大も残る3つの壁

ローマ旧市街を走るフィアットの超小型EV「トッポリーノ」(2025年1月)|BalkansCat / Shutterstock.com

 2025年12月、欧州委員会は全長4.2メートル以下の小型電気自動車(EV)を対象とする新カテゴリー「M1E」の創設を含む規則案を発表した。一定の欧州域内生産要件を満たす小型ゼロエミッション車については、メーカーの平均二酸化炭素(CO2)排出量を算定する際、1台を1.3台として扱う「スーパークレジット」の導入も提案されている

 メーカーにとってはCO2規制への対応で有利になる可能性があり、ユーザー側でも各国や自治体による購入支援などの優遇策につながることが期待される。M1E規格の創設を、日本の軽自動車に近い小型車カテゴリーを欧州連合(EU)が設けようとしていると捉える向きもあり、欧州メーカーの間でも軽自動車を参考にした小型車開発への関心が高まっている。

◆欧州の使用環境における軽自動車のメリット
 前回記事で、生産終了から10年が経つトヨタiQの人気が今なお続いていることを紹介したが、欧州都市部では狭いスペースでの縦列駐車や旧市街の細い道の運転が日常的で、軽自動車のようなサイズ感への需要は根強いと感じる。

 フランスには普通自動車免許なしで乗れる超小型車枠(通称「ボワチュレット枠」)がある。シトロエンのアミやフィアットのトッポリーノがその代表例で、アミは8490ユーロからという新車としてはリーズナブルな価格で販売されている。販売網は自動車ディーラーに限らず、家電量販店にも広がっている。

 こうした車は14歳から運転できる(ただし、1988年以降に生まれた人は原則としてAM免許が必要で、完全な「免許不要」というわけではない)。地方部では若者の通学や高齢者の移動手段として、都市部では駐車のしやすさを生かした日々の短距離移動の足として利用されている。カーシェアリングへの採用例も見られる。

 軽自動車はボワチュレット枠に収まることはないにせよ、ヒュンダイ・インスター、トヨタ・アイゴXハイブリッド、フィアット500といった、欧州での普通車の最小カテゴリーであるAセグメントの車種よりも小さい。限られた車体寸法のなかで室内空間を広く確保し、装備を充実させた車種が多いのも軽自動車の特徴だ。日本市場で培われたパッケージングと小さな車体による取り回しの良さは、欧州でも関心を集める余地がある。

 価格面も期待される。小型車の代名詞だったルノーのルーテシアは新型となり、ハイブリッド版は2万4600ユーロからとなっている。円安とはいえ、大衆ブランドのBセグメントの小型車が約450万円からというのが、欧州の新車価格の現状である。この状況をうまく利用しているのが中国製の低価格EVで、BYDやリープモーターの小型EVを街中で見る機会も日に日に増している。もし軽自動車が2万ユーロ以下などの戦略的な価格で投入されれば、注目を集める可能性は十分にある。

◆軽自動車の欧州での課題
 もっとも、欧州で軽自動車が普及するには課題も残る。まず挙がるのは高速走行への対応だろう。日本でも一部の高速道路では最高速度120キロの区間があるが、欧州には130キロを上限とする国や、ドイツのアウトバーンのように一般的な法定速度上限が設けられていない区間もある。こうした道路を長距離巡航するとなれば、高速安定性や乗り心地などへの要求はより厳しくなる。

 第二は安全性だ。欧州で自動車を販売するにはEUの型式認証に適合する必要があり、それとは別に、消費者向けの安全性能評価としてユーロNCAPがある。日本の軽自動車は日本の規格や使用環境を前提に設計されているため、欧州で販売する場合には型式認証への対応が必要となる。さらに、現地の小型車と同等の安全評価を得ようとすれば、車種によっては追加の設計変更が必要になる可能性もある。

 第三に使われ方の違いも大きい。日本では、軽自動車は税制上の優遇や比較的低い維持費を背景に、日常の近距離移動を中心に広く普及してきた。一方、欧州では国によっては長距離移動や高速道路利用が日常的で、自動車で国境を越える機会も少なくない。税制や各種の優遇制度も国ごとに異なるため、軽自動車が広く普及するには、車両そのものだけでなく制度面での対応も重要になる。

◆期待したいスズキの第一歩
 そうしたなか、軽自動車の欧州展開につながる動きとして注目されるのがスズキだ。同社は日本向けの軽EV「eスカイ」を発表しており、全長は3395ミリと日本の軽自動車規格に収まる。

 一部報道によると、スズキは2027年にeスカイをイギリスやイタリアなど欧州へ輸出することを計画しているという。報道では、イギリスでの価格を2万ポンド(約400万円)以下に抑えることを目指しているともされる。欧州輸出の時期や価格についてはスズキが正式発表した内容ではないものの、日本の軽規格に近い車両が欧州市場に投入されれば、その反応を探る試金石になりそうだ。

 欧州委員会が提案しているM1Eの定義に照らせば、ルノー4やルノー5、フォルクスワーゲンのID.ポロなど、全長4.2メートル以下のEVが対象になり得る。ステランティスも、手頃な価格の小型EV「E-Car」構想を発表し、2028年の生産開始を予定している

 ただし、M1Eの新設がそのまま日本製軽自動車への優遇を意味するわけではない。現在提案されているスーパークレジットには欧州域内での生産に関する条件があり、日本で生産して輸出する軽EVが同じ恩恵を受けられるとは限らない。一方で、欧州メーカー各社が手頃な価格の小型車を充実させれば、ライバルが増える半面、小さな車に対する市場の認知や需要が広がる可能性もある。軽自動車が欧州で受け入れられる素地は、少しずつ整いつつあると捉えることもできるだろう。

Text by 行澤隆