毎年9月に開催される、北欧を代表する建築・デザインのフェスティバル『ヘルシンキ・デザイン・ウィーク(HDW)』が、今年で21回目を迎えた。以前から行きたいと思っていたが、今年ようやくかなった。フィンランド湾を臨む、とても穏やかな雰囲気の街並みに、デザインの拠点(展示やワークショップ、パネルディスカッション、食のイベントやサステナブルなブランドが集うイベントなど)が点在し、見事に溶け込んでいるのが印象的だった。

© Justus Hirvi

今年のHDWのテーマは『近付いてくる他者』。HDW創設者兼ディレクターのカリ・コルクマンは、「クリエイティブな分野は閉鎖的なシステムの中で生まれるのではなく、人々のつながり、そしてアイデアや資源や意味の交換を通して生まれる」と語る。各会場において、来場者はデザインそのものとの出合いを楽しみ、また、ほかの来場者やクリエーターとの出会いを通し、自分の中に“新たなアイデア”が芽生えるのを感じたことだろう。こうした交流によって町が変わり、未来が作られていくのだとコルクマンは確信している。

多岐に渡った会場の一部をフラッシュ的に紹介しよう。

アアルトの花瓶をかたどったパビリオン

フィンランドの著名な建築家アルヴァ・アアルトの精神を称えるインスタレーション、『アアルト90パビリオン』では、彼が90年前にデザインした花瓶アアルトベースの中に足を踏み入れたような体験ができた。花瓶のシルエットは、高さ7mのアルミニウム(再生可能エネルギーを用いて製造された低炭素アルミニウム)で拡張されている。

波打つ形状とシームレスな質感は、外観と内部の両方に神聖な雰囲気を醸し出す。内部には、写真家アルノ・ラファエル・ミンキネンの作品が展示された。このパビリオンは、同国の食器ブランド、イッタラが開設したもの。設計は、ノルウェーのデザイナーとデザインスタジオのタブローが手掛けた。今夏デンマークのコペンハーゲンで初公開され、今回は2度目のお披露目だ。

UFO型住宅フトゥロと、マリメッコとの巡り合い

見ているとワクワクしてくるUFO型の家『フトゥロ』が、ヘルシンキ中央駅から歩いてすぐのカイサニエミ植物園に登場した。フトゥロは、約60年前、フィンランドの建築家マッティ・スーロネンが、親友のために小型のスキー小屋としてデザインしたもの。長い時を経て、オリジナルの製造方法を忠実に再現し、この新しい白いフトゥロが完成した。

丸いフォルムを成形しやすく、また移動することが前提なため、輸送と組み立てを簡素化しようと、スーロネンは強化プラスチックを素材として採用した(脚部はスチール製)。植物園では平坦な芝生に建っていたが、急な斜面(傾斜20度)でも設置できるという。丸いシェイプのおかげで、雪が積もることを防げる。フトゥロは世界中で約100棟製造され、現在も半数以上が残っているという。

8人が収容可能。インテリアは、日本でも人気が高いフィンランドのテキスタイルブランド、マリメッコが担った。テキスタイルアーティストのヴィベケ・ローランドがデザインした赤系の生地が、白い壁や白い家具に映える。ローランドは複数のパターンをデザインしたが、床の色が赤と決まっていため、内装全体に赤系の生地を使うことにしたそうだ。

都心の未来を、市民で考える空間

ネットでの買い物や取引、リモートワークの拡大などの影響を受け、ヘルシンキ市内には使われていないスペースがいくつもある。そこでHDWと市はタッグを組み、都心を再構築して活性化させることを目指した2年間のプロジェクトをスタートさせた。今回、このプロジェクトのための会場となったのは、長らく放置されていた旧店舗。『HDW Lab』と名付けられてモニターが並べられ、都市開発やビジネス専門家がヘルシンキの未来像を語った。

今回は、人々の具体的な意見のリサーチが実施された。来場者はここで、「将来、そういった空きスペースにどのような活動やサービスがあってほしいか」について自分の意見を残すことができ、訪問できない人もオンラインのアンケートに答えることで参加できた(オンラインアンケートは継続中)。調査結果は、来年のHDWで発表される予定だ。

AIを使い、具体的なアイデアを一緒に探るワークショップも行われた。対象は商用物件所有者などのビジネス関係者、そして、このテーマに興味がある一般市民の2つのグループで、各自ノートパソコンを持参した。

野生キノコが味わえるスタンド

HDW Labの向かいには、『ワイルド・マッシュルーム・バー』というポップアップレストランが建てられた。その名の通り、アンズタケがたっぷり乗ったトースト、ポルチーニのリゾットなど野生キノコを使った料理が楽しめた。

メニューを考案したのは、サミ・タルベルグ。フィンランドの著名料理人で、キノコ以外の野生植物も自ら採集し、自然とのつながりを強く感じさせる数々のレシピを生み出している。料理本も出版し、採集コース(タルベルグと一緒に野生植物を採集した後、彼の指導の下で調理する)も実施している。

キノコの採集シーズンに合わせた粋な企画だった。バーは5席のみと小規模だったため、HDW Labがダイニングルームの役割も果たし、Labで食べることもできた。

アトリエを訪問できる、恒例のオープン ・ステュディオス

© Justus Hirvi

HDW期間中の最初と最後の金曜日は、建築家やアーティスト、デザインハウスが、ヘルシンキのワークスペースを一般公開した。このプログラムはHDWで毎年お馴染みだ。今年は、艶のある太いフレームが目を引くアイウェアのパロセラス、ソファテーブルなどのタイル家具を制作するヘイ・ヘルシンキ、帽子デザイナーのパウラ・カスなど9件が参加。個性あふれたアートピースを見ながら、クリエーターと直接交流することができた。

アーティストのアンナ・ケサニエミもアトリエを開放した。1年ほど前にここに引っ越してきたという。陶芸窯は近所にある。カラフルで細やかなデザインの陶器とイラストレーションは見る人を強く惹きつけるエネルギーを放っていた。

昨年、岡山市の新しいコンセプトストアのエト アクシスで、日本初となる個展を開催した。「コラージュのワークショップにあらゆる年代の方が集まってくださり、とても楽しかったです。日本とフィンランドのカルチャーに関しては、似ている点がありますね」と話してくれた。

下の画像にあるように、ほかの展示も興味深かった。HDWでは、ヘルシンキの“デザインシーンの今”をディープに体験できる。HDWに合わせてフィンランドを旅してみてはいかがだろう。

ヘルシンキ・デザイン・ウィーク 

2026年8月28日~9月6日
※2027年は9月上旬開催予定

All photos except press images by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/