ガザ戦争描く映画、イスラエルで激しい反発 ベネチア受賞、監督の国籍剥奪要求も
ガザ戦争における民間人の死者数を扱ったイスラエルのドキュメンタリー映画が先週、ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、イスラエル国内で激しい反発を招いている。政府高官らが怒りをあらわにし、映画製作者からイスラエル国籍を剥奪すべきだとの声まで上がっている。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、映画『NAZA』の制作関係者を、扇動行為を行い反ユダヤ主義的だとして非難している。一方、イスラエル軍トップは、このプロジェクトに協力した兵士を特定すると表明した。
3年間にわたり、夜間のテルアビブの屋上で極秘に撮影された『NAZA』には、情報将校や兵士を含むイスラエル軍関係者24人が登場する。彼らはガザ戦争の内情や、自らがパレスチナ民間人の組織的な殺害だとする行為について証言している。
証言者らは、イスラエルがガザ地区で武装組織ハマス関連の標的候補を特定し、爆撃するために人工知能(AI)を使用しており、しばしば多数の民間人が死亡する可能性が高いと承知しながら攻撃していると主張する。イスラエル軍は標的特定の補助としてAIを使用していることを認めているが、攻撃を実施する前の最終判断は人間が下しているとしている。
◆ドキュメンタリーがイスラエルで激しい反発を招く
ベネチアでの評価を受け、イスラエルの主要政治家や軍高官の間では激しい反発が広がった。多くが『NAZA』を反イスラエル的で文脈を欠いていると評しているが、いずれも映画を見ていないことを認めている。
ネタニヤフ氏や閣僚、さらに来月の重要な選挙を控える同氏の政敵らも、そろって映画を酷評し、反ユダヤ主義的で、イスラエルを中傷するより広範なキャンペーンの一部だと主張した。
ネタニヤフ氏は14日、「我々は世界的な反ユダヤ主義の扇動と戦っている。それが我々自身の中から出てくるとなれば、到底耐えられない」と述べた。
イスラエルのミキ・ゾハル文化相は同日、このドキュメンタリーのイスラエル人共同監督、ユヴァル・アブラハーム氏とラヘル・ショール氏の国籍を剥奪するよう求めた。イスラエル軍のエヤル・ザミル参謀総長は軍検察に対し、映画を通じて機密情報が漏洩した可能性について調査するよう要請した。
ザミル氏は「これは、最悪の敵から我々自身を守る正当性を否定しようとする危険な試みだ」と述べた。
英紙ガーディアンと、2023年公開のオスカー受賞作『関心領域』を手がけたジョナサン・グレイザー監督が共同製作した『NAZA』は、アブラハーム氏とショール氏が手がける2作目のドキュメンタリーだ。前作は2025年にオスカーを受賞した『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』で、占領下のヨルダン川西岸地区の一部で、イスラエル軍による家屋の取り壊しやイスラエル人入植者による攻撃に直面するパレスチナ人を記録した。
イスラエル軍で「巻き添え被害」を意味する頭字語をタイトルにした『NAZA』について、ガーディアン紙は作品紹介で、「ガザにおけるイスラエルによるパレスチナ民間人の計算ずくの大量殺害、その背後にあるシステムを詳細に明らかにしている」と説明している。
映画はまだ一般公開されていないが、製作者らはイスラエル、欧州、アメリカでの配給を目指す考えを示している。
ガーディアン紙は声明で、「作品に収められた証言は真実であり、耳を傾けるに値すると我々は考えている。インタビューに応じたのは、身元を秘匿した取材源だ」と述べた。
◆映画への批判が浮き彫りにする戦争をめぐる分断
アブラハーム氏は、イスラエルのチャンネル13のラヴィヴ・ドラッカー記者とのインタビューで、自身やショール氏への攻撃を見れば、映画の参加者の多くが匿名を望んだ理由が分かると語った。証言や作品内で描かれた出来事を検証した制作側の手法についても、妥当だったと擁護した。
また、イスラエルのジャーナリストが、なぜ民間人の死者や戦争中の軍の交戦規定についてほとんど調査してこなかったのかと疑問を呈した。
「多くの兵士が、このことについて話す機会を待っていたと私に語った」と述べた。
映画の中心的な主張の多くは以前にも報じられていたが、今回のイスラエル側の反応は、イスラエルの行動をめぐる批判に対し、当局がこれまで取ってきた対応を思わせる。批判者を攻撃し、その動機に疑問を投げかけ、主張の信憑性を争うというものだ。
今回の反応はまた、ガザ戦争をめぐる見方が、イスラエル国内と国際社会との間で大きく隔たっていることも映し出している。多くのイスラエル人は、ハマス主導の武装勢力が2023年10月7日にイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質に取ったことを受け、この戦争を自衛行為と捉えてきた。この日はイスラエル史上、最も多くの死者が出た日となった。
一方、国際的には、この戦争は広く非難され、戦争犯罪に当たるとの指摘も出ている。民間人と戦闘員を区別して集計していないガザ保健省によると、3年近く続く戦争でガザの大部分が破壊され、少なくとも7万3789人のパレスチナ人が死亡した。
ネタニヤフ首相府のドロン・スピルマン報道官は、イスラエルは映画の主張を否定すると述べ、アブラハーム氏とショール氏の動機に疑問を呈した。
スピルマン氏は、ベネチアの観客が映画に送った25分間の拍手に触れ、「彼らが欲しかったのは、海外のイスラエル嫌いからもらう賞だ。そして、スタンディングオベーションだった」と述べた。
By SAM METZ Associated Press




