トヨタiQ、なぜパリで今でも活躍? 生産終了10年でも重宝される理由

パリ16区の路上に駐車されたトヨタiQとスマート・フォーツー(2026年3月、写真すべて筆者撮影)

 日本ではすっかり見かけなくなったトヨタの超小型車iQだが、パリをはじめとする欧州の都市部を歩けば今も頻繁にすれ違う。2008年に発売され、2016年に国内での生産・販売を終えてから、すでに10年が経つモデルであることを考えると、なかなか珍しい事態である。

 場所によっては、かつて唯一の直接的なライバルだったスマート・フォーツーよりも見かける頻度が高いのではないかとさえ感じる。商業的には成功せず1代限りで市場から姿を消した車が、なぜ海を渡った先でこれほど生き残っているのだろうか。

トヨタiQ

◆狭い駐車スペースに強い全長2985ミリ
 背景には、まず何より欧州特有の駐車事情がある。欧州の都市部では、路上での縦列駐車が基本であり、自車の全長プラス数十センチしかないような狭い空間に車をねじ込まざるを得ない状況が毎日のように起こる。

 このような駐車環境では、全長のわずかな違いが駐車できるかできないかの分かれ目となる。全長2985ミリのiQは、普通サイズの車であれば諦めざるを得ない隙間に入り込めるうえ、縦向き(歩道に垂直)に停めるという最終手段もある。

パリ16区の路上に並ぶ小型車。トヨタiQも複数台見られる

 小さい見た目以上の実用性も見逃せない。iQは大人3人と子ども1人、あるいは荷物を載せられる「3+1」のシート配置を採用しており、普段は1人で乗っていても、いざとなれば友人や子どもを乗せられるという安心感がある。

 車体の大きさでは大差のないスマート・フォーツーが2人乗りに割り切っているのとは一線を画す。この柔軟性こそ、10年たっても多くのiQが現役で走り続けている理由なのではないだろうか。

 もちろん、走行性能に不足がないのも欧州で受け入れられている要因だろう。筆者自身、15年近く前にオランダでレンタカーを借りた際に、iQが割り当てられて丸1日ドライブしたことがある。当時、オランダの高速道路の制限速度だった130キロで走っていても不安はなかった。

 当時自家用車として所有していたゴルフVと比較しても、短い全長から来る前後の揺すられ感が少し大きいと感じた以外は、走行の安定感には大差なかったと鮮明に記憶している。

◆10年落ちでも高値 中古市場で根強い人気
 iQの根強い人気は、中古車価格にも表れている。フランスの中古車情報サイトを眺めていると、走行距離が短く状態の良い個体は今でも1万ユーロ前後で取引されており、10年落ち以上のコンパクトカーとしては驚くほどの値が付いている。

 走行距離が15万キロを超え、写真でもボディ傷が目立つようなくたびれた個体でも、5000ユーロは下らない。トヨタ車は一般に中古車価格が下がりにくいと言われるが、同年代のスマート・フォーツーと比べても高値を維持している状況を見ると、2人乗りと割り切ることができないユーザーの間で、iQへの根強い需要があることがうかがえる。

 ちなみに、iQをベースにアストンマーティンが内外装を仕立てたアストンマーティン・シグネットとなると、この記事の執筆時点で中古車情報サイトに出ている最安の個体が、走行距離7万9000キロで3万6900ユーロとなっている。

 アストンマーティンのブランド力があるとはいえ、発売当初の新車価格が3万8250ユーロだったことを考えると、現在も新車価格に迫る値段を維持していることになる。

◆後継なきiQ 今も「代わり」がない
 トヨタはiQの販売終了後、欧州市場にこれに代わる超小型モデルを投入していない。トヨタの欧州市場最小車であるアイゴXの現行モデルは全長3776ミリであり、フィアット500も現行モデルは全長3631ミリである。

 わずかな全長差でも使い勝手を左右する都市部の縦列駐車において、iQとの約80センチの差は大きすぎる。スマート・フォーツーもすでに市場から姿を消し、その後継となるスマート#2は2人乗りの電気自動車(EV)として登場する予定だ。iQのように全長3メートル前後で、いざという時には4人乗れる車という選択肢は、現在の欧州市場では見当たらない。

 結局のところ、iQがパリの街角で生き残り続けているのは、性能や人気そのものというよりも、「代わりがない」というのが理由かもしれない。

 狭い駐車スペース探しに悩まされ続けるパリジャンにとって、いざという時には4人乗れるあの小さなボディはいまだに唯一無二の選択肢であり続けている。この分では今後もパリの路上で大切に乗り続けられるiQを見られることになりそうだ。

Text by 行澤隆