米韓演習縮小が突きつける問い 日本に「備え」はあるのか

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 アメリカのトランプ大統領が、韓国との定例合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムシールド」の大幅な縮小を突如指示した。北朝鮮への「敵対的」なメッセージになることなどを理由に挙げたが、この決定に不安を募らせているのは韓国だけではない。

 日本を含むアジアの同盟国では、アメリカがこれまで通り地域の安全保障に関与し続けるのか、その信頼性を疑問視する声が出ている。今回の出来事を単なる「米韓関係の問題」として見るのではなく、日本の安全保障の将来を考える契機とする必要がありそうだ。

◆韓国だけではない アジアに広がる不安
 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、トランプ氏による米韓合同演習の縮小が、台湾をめぐる同氏の発言などですでに不安を抱えていたインド太平洋の同盟国に、アメリカの信頼性をめぐる懸念をさらに強めたと報じた。

 懸念の背景にあるのは、合同演習の縮小だけではない。米空母「ジョージ・ワシントン」を中心とする空母打撃群は中東へ向かい、アジア地域では米空母が不在となった。イランとの戦争によってアメリカの兵器在庫も減少し、日本へのトマホーク巡航ミサイルの納入にも大幅な遅れが生じているという。

 アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のアジア安全保障専門家ザック・クーパー氏はFTに対し、トランプ政権がアジアで抑止力を強化していると強調する一方、重要な弾薬や海軍戦力を中東へ移し、アジアの同盟国との軍事演習を削減していると指摘した。

 アメリカのアジアへの関与をめぐっては、単に「守る意思があるか」だけでなく、「守り続ける能力があるか」という疑問も浮上している。

 米政治専門サイト『ポリティコ』は、今回の決定を受け、アジアの同盟国が防衛をどこまでアメリカに依存できるのかを再考し、ワシントンへの依存を減らそうとする動きが強まっていると報じた。あるアジアの外交官は、問題はアメリカの「意思」だけではなく、約束してきた規模の軍事的プレゼンスを維持できる「能力」にもなりつつあるとの見方を示している。

◆日本も無関係ではない 問われるアメリカの信頼性
 今回の決定が同盟国を不安にさせている理由は、韓国との演習が縮小されたことだけではない。トランプ氏が、長年続いてきた安全保障上の取り決めを、別の外交問題と結びつけて変更したことにもある。

 トランプ氏は、韓国がアメリカによる対イラン軍事作戦を支援しなかったことにも言及しながら、合同演習の縮小を打ち出した。ポリティコが取材した元米国防副次官補のイアン・ブレジンスキー氏は、この動きは韓国だけでなくインド太平洋全体に波紋を広げ、各国が「自国とアメリカとの関係も、韓国と同じように不安定なのではないか」と考える事態になっていると指摘する。

 日本も無関係ではない。

 米政治専門紙ザ・ヒルへの寄稿で、元米国防次官のドブ・ザクハイム氏は、小泉進次郎防衛相が今回の決定を受け、日米韓の協力が地域の平和と安定に不可欠だと強調したことを紹介した。そのうえで、小泉氏やオーストラリアのリチャード・マールズ国防相が明言しなかった懸念として、「同盟国としてのアメリカの信頼性」を挙げている。

 もちろん、トランプ政権はアジアから撤退すると表明しているわけではない。日米韓3カ国の共同訓練「フリーダム・エッジ」は拡大され、フィリピンとの軍事協力も強化されてきた。FTが取材した専門家によれば、中国の軍事的脅威などを背景に、日本やオーストラリアではアメリカへの信頼が低下する一方、同盟そのものへの支持は依然として非常に高いという。

 それでも今回の決定は、アメリカによる支援を当然のものと考えることはできないと、同盟国に改めて意識させる出来事となった。

◆日本には「プランB」がない?
 では、アメリカのアジアへの関与が将来縮小した場合、日本はどうするのか。

 別のFT論説は、この問いを日本の「プランB」の問題として取り上げている。

 同紙は、戦後日本の安全保障には明確な「プランA」が存在してきたと指摘する。深刻な脅威が発生した場合、日米同盟に基づいてアメリカの軍事的な保護を受けるという前提だ。一方、平和憲法による制約もあり、日本は75年間、「プランB」を持たないだけでなく、その構想自体にも制約を受けてきたと論じている。

 韓国と日本の違いについて、同紙はさらに踏み込む。アメリカによる安全保障上の保証が本当に揺らいだ場合、韓国は安全保障政策を「再調整」する必要があるが、日本は安全保障体制そのものを「再構築」しなければならないというのだ。

 もちろん、日本も防衛力の強化を進めている。2026年版防衛白書では、2027年度までに日本が侵攻への対処で「主たる責任」を担える能力を強化する方針を示している。しかし、それもアメリカの支援を前提としており、FTが取材した専門家は、まだ「プランB」と呼べる段階ではないとみている。

◆「アメリカが守る」を当然としないために
 アメリカの関与が縮小した場合に備えることは、直ちに日米同盟から距離を置くことを意味しない。

 むしろアジアでは、アメリカとの同盟関係を維持しながら、安全保障をより自立的に支える動きがすでに進んでいる。ポリティコは、防空・ミサイル防衛への投資や軍事施設の強靱化、オーストラリアや欧州との協力強化などが、アメリカへの依存を減らす選択肢として挙がっていると報じている。

 日本もフィリピンなどとの安全保障協力を拡大している。元在米日本大使館政務担当特別補佐官の辰巳由紀氏はポリティコに対し、日本は、アメリカの地域への長期的な関与に強い不安を抱く米同盟国の連携を、自ら率いる存在だとますます考えるようになっているとの見方を示した。

 日米同盟は今後も日本の安全保障の基軸であり続けるだろう。しかし、それが永遠に現在と同じ形で続くことを当然の前提にしていいのかは、別の問題だ。

 アメリカのアジアへの関与が縮小した場合、日本は自国の防衛をどこまで担うのか。アメリカだけでは足りない部分を、どの国々との協力によって補うのか。そして、そのためにどの程度の負担を引き受けるのか。

 米韓合同演習の縮小は、一見すれば韓国の安全保障をめぐるニュースだ。しかし日本にとっても、「アメリカが守る」という戦後長く続いてきた前提が揺らいだ場合にどうするのか。その議論を始める必要性を改めて突きつけている。

Text by 白石千尋