ネットで不評の新型プレリュード、なぜアメリカで売れている? 乗ってみて分かる「数字以上の魅力」

American Honda Motor Co., Inc.

 ホンダが約25年ぶりに復活させた新型「プレリュード」が、アメリカで堅調な販売を続けている。ホンダの販売実績によると、2026年1~7月の販売台数は累計2077台。7月単月では354台を販売し、ホンダは同月の販売目標を上回ったとしている。

 意外なのは、発売前後のインターネット上では新型プレリュードへの厳しい声が目立っていたことだ。新型は2.0リッターエンジンを使うハイブリッドで、システム最高出力は200馬力。前輪駆動でMTもなく、アメリカでの価格は4万2000ドルからとなる。より高性能なクルマを買える価格帯だけに、「パワーが足りない」「MTがない」といった批判が出るのも不思議ではない。

 それでも販売目標を上回る月が出ているのはなぜなのか。実際に試乗したアメリカのメディアの記事を読み比べると、スペック表だけでは捉えにくい新型プレリュードの性格が見えてくる。

◆ネットでは酷評、街中では注目の的
 ネットと現実の温度差を象徴するのが、自動車メディア『ザ・ドライブ』の記事だ。

 ジェリー・ペレス氏はプレリュードを約3週間使用し、最高出力や価格、歴代モデルとの違いをめぐって自動車ファンの間で大きな議論が起きている一方、実際の街中では「普通の人はそうしたことをほとんど気にしていない」と指摘した。

 約3週間、写真を撮られたり、親指を立てるジェスチャーを受けたりしない日はなかったという。カナダ・モントリオールでは、歩行者が立ち止まって撮影するほど注目された。

 しかも、声を掛けてきた人の大半は熱心な自動車ファンではなかった。ペレス氏が自動車好きの間で議論されるポイントや専門用語を話しても、相手には通じないことが多かったという。

 一記者の体験ではあるが、「200馬力」「MTなし」といったネットで重視される要素が、一般のユーザーにも同じ重みを持つとは限らないことを示す象徴的なエピソードだ。

◆乗ると変わる「200馬力」の印象
 自動車メディア『ジャロプニク』も、スペックと実体験の違いを強調している。

 同誌は、前輪駆動のハイブリッドでMTもない新型プレリュードについて、スペックだけを見れば魅力に乏しく映るとする。ところが実際に運転した筆者の評価は逆で、「かなり楽しめた」というものだった。

 特に評価したのが足回りだ。プレリュードには「シビック・タイプR」由来の技術が使われており、俊敏なハンドリングと快適な乗り心地を両立する。ジャロプニクは、シビックSiやシビック・ハイブリッドなどではなくプレリュードを選ぶ理由として、サスペンションの良さを挙げている。

 モーターによるトルクも、公道では十分な軽快さを感じさせるという。猛烈な速さではないが、速度制限のある一般道で楽しむには不足を感じなかったとしている。

 最高出力や加速タイムでは表せない部分が、実際に乗った際の評価を押し上げている。

◆専門誌が測れば、弱点も見える
 もちろん、試乗すれば欠点が消えるわけではない。

 自動車専門誌モータートレンドの計測では、0-60mph加速は6.4秒。同じ200馬力のハイブリッドシステムを搭載するシビック・ハイブリッドよりわずかに遅かった。

 疑似的な変速感を作る「Honda S+ Shift」にも厳しい。同誌は演出としての面白さを認めながら、本物の変速機ほど説得力がないと評価。テストでは使用時の0-60mph加速が少なくとも1秒遅くなったという。

 一方で、ハンドリングは高く評価している。タイプR由来のサスペンションやアダプティブダンパー、ブレーキなどを備え、鋭いターンインと高いグリップを示した。

 つまり専門誌から見ても、プレリュードの走りそのものが悪いわけではない。むしろシャシーの出来が良いために、さらなるパワーが欲しくなるという評価だ。

◆速さより「毎日乗れるクーペ」
 テクノロジー系メディア『アーズ・テクニカ』は、プレリュードを別の尺度から評価している。

 マツダ「MX-5」やスバル「BRZ」はより軽く、BRZはプレリュードより高出力。フォルクスワーゲン「ゴルフGTI」も同程度の重量で約20%高い出力を持つ。それでも同誌は1週間乗った後、スペックが気にならなくなったとし、2026年に試乗する中でも有力な1台になりそうだと高く評価した。

 強みは、走りだけではない。EPAの複合燃費は44mpgで、満タン時の航続距離は466マイル(約750キロ)。アーズ・テクニカは、長距離移動にも適したグランドツアラーとしての性格を評価している。

 新型プレリュードへの批判に根拠がないわけではない。もっと速いクルマも、MTを楽しめるクルマも存在する。

 ただ、実際の試乗記で繰り返し評価されているのは、最高出力ではなく、ハンドリングと快適性、燃費、そして希少になった2ドアクーペとしての存在感だ。

 1~7月に2077台を販売し、7月にはホンダの販売目標を上回ったという事実も、その価値を求める層が一定数いることを示している。

 ネットで重視される評価軸と、実際にプレリュードを選ぶ人が求めるもの。その違いが、評判と販売実績のギャップを生んでいるのかもしれない。

Text by 白石千尋