干上がるドナウ川、原発にも危機 物流に打撃、軍艦やマンモスの骨も露出

水位が下がったドナウ川から姿を現した第二次世界大戦中のドイツ軍艦の残骸|Darko Vojinovic / AP Photo

 現在、記録的な暑さに見舞われている欧州では、深刻な干ばつも広がっている。欧州連合(EU)域内で最も長いドナウ川でさえ、これまでにないほど水位を下げ、その影響は複数の国に及んでいる。

◆ドナウの豊かな流れに異変
 ドイツの南部を源流とするドナウ川は、オーストリア、スロヴァキア、ハンガリー、クロアチア、セルビア、ルーマニア、ブルガリアなど多数の国を経て黒海に注ぐ。その全長は2857キロメートルと、欧州ではロシアのヴォルガ川に次ぐ長さだ。豊かな水流は古くから、氾濫による水害をもたらす一方、水路として沿岸諸国に多くの恩恵を与えてきた。

 だが、今夏の度重なる熱波と干ばつにより、ドナウの水位は場所によっては過去最低を記録し、沿岸諸国に多くの影響をもたらしている。

◆低い水位で航行が困難に
 例えばセルビアの港では、数百隻の船が砂州に乗り上げ動けなくなっており、ヨーロッパ各地へ輸送されるはずの木材や小麦が立ち往生する事態となっている。

 さらに南のブルガリアでは、水位の下がったドナウ川でクルーズ船が座礁し、200人近い乗客が避難する騒ぎが起きた。

◆マンモスの骨に、ナチスの軍艦
 ブルガリア北部では、干上がったドナウの川床で、7月29日にマンモスの骨が発見された。ルセ地方歴史博物館のネノフ館長によれば、氷河期に生息していたケナガマンモスの若い個体の骨である可能性が高いという。

 ドナウに沈んでいたのはマンモスだけではない。セルビア東部、ルーマニアとの国境にあるプラホヴォ付近では、水位の落ちたドナウから、錆びた軍艦が姿を現した。これらの艦船は、ナチス・ドイツの黒海艦隊に所属していたもので、第二次世界大戦末期の1944年9月、ルーマニアから撤退するドイツ軍が、進撃するソ連軍の砲火を受ける中で自ら沈めたものである。この時自沈したドイツ軍艦は200隻に及んだ可能性があるという。

◆原子力発電所の冷却水不足
 ドナウの流れは、沿岸諸国の原子力発電所の冷却水としても利用されている。そのため、劇的な水位低下により、ルーマニアやハンガリーの原子力発電所では通常の稼働が難しくなっている

 ルーマニアでは、国営原子力発電会社が国内電力需要の約5分の1を供給しているが、7月末には、河川水位の低下のため、2基ある原子炉のうち1基を停止させた。政府が家庭や企業に節電を要請する中、同国内にあるダチアとフォードの自動車工場は、8月19日まで生産を停止する。ただし、フォードは夏季休暇に伴う生産停止は事前に予定されていたとしている。

 また、チェルナヴォダ原子力発電所で唯一稼働している原子炉への冷却水を確保しようと、ドナウの水を原発側へ導くため、8月3日、ルーマニア海軍などが岩盤を砕く制御爆破を行った。

◆ハンガリーは電力供給危機
 隣国ハンガリーが有する唯一のパクシュ原子力発電所もドナウの水流を冷却水として利用している。パクシュ原子力発電所は、通常、国内電力の約半分を供給しているが、ドナウの水位が過去最低を記録したことを受け、8月3日には、出力を10%強に抑えての稼働を余儀なくされた。

 マジャル首相は、家庭や企業へ自主的な電力消費削減を呼びかけ、発電所の完全停止を回避したい考えだ。しかし、レクスプレス誌によると、4基あるタービンのうち3基はすでに停止している。8月3日夜から4日にかけては完全停止の基準まで数ミリに迫ったが、その後、ドナウの水位は1.5センチ上昇した。それでも厳しい状況が続いている。

Text by 冠ゆき