暑すぎるロンドン地下鉄 「まるでサウナ」と乗客 冷房を導入できない理由

ロンドンの地下鉄車内で携帯扇風機を使う乗客(2024年8月)|Yau Ming Low / Shutterstock.com

 イギリスでは熱波により高温の日が相次いでおり、6月には37.7度を記録し、6月としての国内最高気温を大幅に更新した。熱波の影響をまともに受けるのがロンドンの地下鉄だ。多くの路線に冷房がないため、耐え難い暑さのなか、人々は汗だくで移動している。近年、夏の異常な暑さは常態化しつつあり、早急な対策が求められているが、一筋縄ではいかないようだ。

◆家畜輸送の基準と比べても過酷 げんなりする乗客
 英スタンダード紙によれば、現在620編成あるロンドンの地下鉄のうち、冷房付きは192編成にとどまるという。

 高温の日は、地下鉄のエスカレーターを降りていくにつれ、まるで炉の中に入っていくかのように暑さが増す。英ガーディアン紙によると、混雑したホームを「まるでサウナ」と表現する乗客もいた。車内では目を閉じてうなだれたり、ハンディファンを顔のすぐ近くで回したりして、暑さをしのぐ人の姿が見られた。

 同紙の記者が持ち歩いていた温度計では、駅構内の気温は約30度に達していた。ホームや地下鉄車内では32度まで上昇し、一部のホームでは34度を記録したという。人の輸送に適用される基準ではないものの、イギリスでは家畜の長時間輸送に使う車両に30度を目安とした温度管理が求められており、地下鉄の暑さの過酷さが際立つ。

◆古い地下鉄ゆえに難しい暑さ対策
 ガーディアン紙の取材に対し、イギリスの複数の大学が連携して運営するティンドール気候変動研究センターのアッシャー・ミンズ所長は、地下鉄のトンネルは、周囲の粘土やコンクリートの熱をため込む「いわばラジエーター」だと指摘した。車両やホーム、周辺のトンネルは、列車がブレーキをかける際に生じる数百キロワットの熱によっても温められており、地上の気温が高ければ高いほど、地下の暑さはさらに厳しくなるという。

 当然、対策としてエアコンの導入が考えられるが、全車両への設置は困難だ。その最大の理由は設備の古さにある。英ニュースサイト『マイ・ロンドン』によると、最も古いトンネルは1800年代にさかのぼり、エアコン設備を追加するためのスペースが単純に足りない。かつて座席の下や床下に冷却設備を取り付ける試みもあったが、うまくいかなかったという。

 もう一つの問題は、列車内の空調から出る熱を排出すると、ホームの温度がさらに上昇する可能性が高いことだ。新たな換気シャフトを建設する方法もあるが、それには莫大な費用がかかる。

 ロンドン交通局(TfL)は、利用客の多い駅に大型の換気シャフトや高性能の送風機、チラー(冷却装置)を導入してきた。しかし、英スタンダード紙によると、一部の駅では冷却設備が故障しており、熱波の際には十分な効果を発揮できていないという。

◆繰り返されるエアコン車両の導入延期 当面の対策は?
 空調設備の拡充を目指し、路線の一部が約120年前にさかのぼるピカデリー線では、29億ポンド(約6300億円)を投じ、エアコンを備えた新型車両94編成を投入する計画が進められている。

 当初は昨年末に最初の車両が営業運転を始める予定だった。その後、開始時期は今年後半に延期され、現在は今年12月から来年6月までの間に最初の車両を投入する見込みとなっている。TfLは、遅延の理由として「老朽化したインフラに全く新しい車両を導入することの複雑さ」を挙げている。

 ミンズ氏はガーディアン紙に対し、地下鉄は気候変動の影響に何としても適応しなければならないが、現時点では乗客の保護に重点を置くべきだと指摘する。気温が一定の基準を超えた際には乗車できる乗客数を制限したり、熱波の際には運行する列車の本数を減らしたりすることを提案している。

Text by 山川 真智子