世界の優秀層が中国の大学へ 揺らぐ米国優位 背景に中国の国家戦略

中国・北京の清華大学(2018年6月)|Michalakis Ppalis / Shutterstock.com

 世界大学ランキングで、近年、中国の大学の台頭が目立っている。特に理工系分野の躍進が著しく、研究力に加え、潤沢な資金や充実した研究環境が評価され、国外の優秀な学生や研究者も引きつけている。これまでアメリカが圧倒的な存在感を示してきた高等教育と研究の世界で、大きな変化が起きている。

◆ロボット・AIで「中国に匹敵する国はない」
 韓国の英字紙コリア・タイムズによれば、ロボットエンジニアを目指す17歳のキム・スンヒョンさんは、中国の名門大学4校から合格通知を受け取った。科学オリンピックで好成績を収め、韓国の工学教育の最高峰とされる韓国科学技術院(KAIST)でのインターンシップにも参加した学生で、KAISTやソウル大学、アメリカの工学系大学への出願を検討していたという。しかし、「ロボット工学や人工知能の分野では、中国に匹敵する国は世界にない」というKAISTの指導教授の言葉を受け、自ら調査を開始。教授の見方は正しいと判断し、中国の大学への出願を決めた。

 2025年に中国の理工系学部に在籍していた韓国人学生は653人で、キムさんは決して例外ではない。かつて中国の大学は、他大学に合格できなかった韓国人学生の受け皿と見られていたが、現在は成績優秀な学生も、先端的な科学技術を本格的に学べる場として、自ら中国の大学を選び始めている。(コリア・タイムズ)

◆中国の大学が躍進 世界ランキングに変化
 中国の大学は、世界大学ランキングで長期的に順位を上げてきた。英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の「世界大学ランキング2026」では、上位10校のうち7校をアメリカの大学が占める。一方、10年前に北京大学42位、清華大学47位だった両校は、清華大学が12位、北京大学が13位まで上昇した。さらに下位では、前年から順位を下げたアメリカの大学が62校に上り、順位を上げたのは19校だった。

 オランダのライデン大学科学技術研究センター(CWTS)が発表する「CWTSライデン・ランキング2025」では、論文数で並べると、浙江大学が1位、ハーバード大学が3位となり、中国の大学が上位を占めた。教育や研究環境、国際性など複数の項目から総合順位を算出するTHEとは異なり、ライデン・ランキングは論文数や引用数などのデータに特化している。大学の教育力を含む総合順位ではなく、研究活動の一側面を示すランキングだ。

◆研究の主導権は中国へ移るのか
 米公共ラジオ(NPR)は、かつて世界の研究をけん引したアメリカに代わり、中国が主導的な役割を担いつつある可能性を指摘する。この流れを加速させかねないのが、トランプ政権の政策だ。ハーバード大学では20年前より研究成果が増えているものの、助成金申請への審査強化によって、新たな研究資金の獲得が難しくなっている。ハーバード大学やデューク大学などでは、複数の研究助成金が説明なく一時的に保留・停止されたという。

 対照的に、欧米への依存を減らし、世界的な超大国としての地位を高めようとする中国は、科学分野に巨額の資金を投じている。NPRが取材した上海の復旦大学の研究者は、十分な研究費やスタッフ、必要な物資があり、研究室も拡大していると語った。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によれば、中国は大学に数十億ドルを投じ、外国人研究者にとって魅力的な環境づくりを進めている。2025年秋には、科学技術分野のトップ大学の卒業生を対象に、中国で学んだりビジネスを行ったりするための専用ビザの提供も始めた。

 一方、全米の大学在籍動向を集計する非営利機関ナショナル・スチューデント・クリアリングハウス(NSC)によると、2026年春にアメリカの大学院に在籍する留学生は前年同期比4.3%減少した。NPRは、留学生が渡航禁止措置や学生ビザ審査の厳格化など、トランプ政権の移民政策の影響を受けていると指摘している。

 NYTは、ハーバード大学は今なお圧倒的な存在感を持つものの、世界で最も多くの研究成果を生み出す大学としての地位は揺らぎつつあると伝える。THEのグローバル・アフェアーズ最高責任者、フィル・ベイティ氏は、高等教育と研究の世界的な優位性において「新しい世界秩序」が生まれつつあると指摘し、この傾向が続けばアメリカが相対的に後退する可能性があると述べた。ただし、アメリカの大学自体が明らかに悪化しているのではなく、他国の進歩がより速いことによるものだと強調している。

Text by 山川 真智子