大気汚染が都市犯罪を増加させる背景を解明する
著:Gary Haq
(ヨーク大学、Environment Department)
大気汚染が人間の健康に及ぼす影響は十分に立証されている。高濃度の大気汚染物質に曝されると、呼吸器感染症、心臓疾患、脳卒中、肺がんだけでなく、認知症やアルツハイマー病のリスクが上昇するのは周知の事実だ。しかし、大気汚染は私たちの健康のみならず、行動にも影響を及ぼすことが次第に証明されつつある。
アメリカでは1970年代、自動車の排ガスが子どもたちの行動障害、学習障害、低IQの原因になっているとの懸念に配慮して、ガソリンから鉛が除去された。とりわけ、幼少期における鉛への暴露は、犯罪行為への影響が考えられる衝動性、攻撃性、低IQなどの特性を増幅させる。ガソリンから鉛を除去したことと1990年代に暴力犯罪が56パーセント減少した事実には関連があるとされている。
大気汚染物質(特に二酸化硫黄)への短期的な暴露は、上海における精神疾患での入院患者数の多さと関連している。ロサンゼルスでは、高レベルのPM(particulate matter: 粒子状物質)汚染は都市近郊の10代の若者の非行を増加させるとある研究で結論づけている。この結果は、乏しい親子関係に加え、親の側の社会的及び精神的苦痛による相乗効果であることは言うまでもない。
大気汚染物質への暴露は脳に炎症を引き起こす可能性があると現在考えられている。さらに、微粒子状物質は脳とニュートラルネットワーク(神経回路網)に損傷を与え行動に影響を及ぼす可能性があるため、子どもの発達中の脳に有害だ。