卒業式での「AI賛美」にブーイング相次ぐ 米Z世代の不安が噴出

グーグル元CEOのエリック・シュミット氏(2024年10月)|Jonathan Brady / Pool Photo via AP

 アメリカの大学の卒業式では、招かれた来賓が社会に飛び立つ学生たちに向けて、人生の教訓や未来へのエールを送る祝辞を述べることが慣例となっている。今年の卒業シーズンも各界の著名人が全国の大学に招かれてスピーチをしたが、これまでとは違った反応が出ているという。

◆AI賛美にうんざり 来賓スピーチにブーイング
 今年の卒業式では、来賓が人工知能(AI)に言及した際に、卒業生側からブーイングやヤジが飛ばされ、スピーチが中断される事態がいくつか起きている。

 アリゾナ大学で行われた式では、元グーグルの最高経営責任者(CEO)、エリック・シュミット氏が登壇。AIを敬遠することは決定的な機会を逃すことになるという趣旨の発言をしたところ、ブーイングを浴びた。セントラルフロリダ大学の卒業式では、不動産業界の幹部グロリア・コールフィールド氏が祝辞を述べたが、AIを「次の産業革命」と呼んだところ即座にブーイングが巻き起こり、スピーチを中断せざるを得なくなった。

 テイラー・スウィフトを発掘した音楽業界の重鎮、スコット・ボルチェッタ氏は、ミドルテネシー州立大学でスピーチ。AIは音楽制作の在り方を書き換えていると語ると、学生たちはブーイングで反応した。これに対しボルチェッタ氏は、あくまでもコンテンツが大事だが、ツールとしてのAIは受け入れるしかないと反論し、スピーチを続けた。

◆競争相手はAI? 学生の職探しに暗い影
 米公共ラジオ(NPR)は、多くの学生は卒業式でのブーイングに理解を示していると述べる。ある学生は、インターンシップや新規採用の枠がAIによって減っていることを実感しているとし、年配の世代が経験しなかった立場に自分たちが追いやられていると話した。

 実際のところ、多くの大手企業が最近の人員削減の理由として、一部の業務をAIで自動化していることを挙げている。スタンダードチャータード銀行は7000人超の人員削減を発表し、AIによる業務効率化を進めている。メタやアマゾン、フィンテック企業ブロックなどもAIを理由の一つとして人員削減を進めている。(米ニュースサイト『アクシオス』)

 クイニピアック大学が3月に実施した世論調査では、1997年から2008年に生まれたZ世代は労働市場に対して最も悲観的で、81%がAIによって雇用機会が減少すると回答した。

 ギャラップが発表した4月の報告書でも、Z世代ではAIに対して不安や怒りを感じている人の割合が増加した一方、AIに希望や期待を抱いていると回答した人は1年前から急減していた。また、回答者のほぼ半数がAIのリスクはメリットを上回ると回答しており、この1年で否定的な感情が強まっていると結論している。(ロイター

 一方、学生たちの実感とは対照的に、コンサルティング会社EYパルテノンの2026年調査によれば、AIによって採用が減少すると予想するCEOは20%にとどまり、2025年1月時点の46%から大きく低下した。

◆AI慣れしたZ世代 恐れているのは取り残されることか?
 対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」がリリースされたのは2022年。今年の卒業生の多くはちょうど入学したばかりで、以来、善悪問わずAIを利用してきた。アクシオスは、職を奪われると恐れつつも若者は宿題、ブレインストーミング、ニュースチェック、娯楽などにAIを活用する傾向が強く、ツールとしての有用性は認めていると説明する。彼らはAIに激しく反対しているわけではなく、デジタル化された世界で取り残される自分を恐れているだけだと結論している。

 このアクシオスの見立ては、正しいのかもしれない。カーネギーメロン大学の卒業式でスピーチをしたエヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏は、「AIがあなたに取って代わる可能性は低いが、あなたよりAIをうまく活用する誰かに取って代わられる可能性はある」と述べた。フアン氏のスピーチは、ブーイングを浴びなかったという。

Text by 山川 真智子