イラン戦争でレーザー兵器が注目される理由 「1発数ドル」が防空を変える

米海軍駆逐艦「プレブル」に搭載されたレーザー兵器「HELIOS」|U.S. Navy / Wikimedia Commons

 イスラエルやアメリカ、中国などが開発を進めてきた「レーザー兵器」が、ついに実戦段階へ入り始めている。

 これまでSF作品のイメージが強かった「光線兵器」だが、背景にあるのは未来技術への憧れではない。安価なドローンが大量投入される現代戦で、従来型ミサイルによる迎撃コストが限界に近づいているためだ。

 イスラエルの「Iron Beam(アイアンビーム)」、アメリカ海軍の「HELIOS」、中国製レーザー兵器の中東輸出――。各国は「光で迎撃する防空システム」の実用化を急いでいる。

◆「数万ドルのドローン」に数百万ドルのミサイル
 現代戦で最大の問題になっているのが、「迎撃コストの逆転現象」だ。

 イラン系ドローン「シャヘド136」の価格は2万〜5万ドル程度とされる。一方、それを撃ち落とすアメリカ製パトリオット迎撃ミサイルは1発300万〜400万ドル、THAAD迎撃弾は1000万ドルに達する。

 イスラエルの防空システム「アイアンドーム」でも、迎撃ミサイル1発は約5万ドルとされる。つまり、数万ドルの無人機を撃ち落とすために、数百万ドル規模の兵器を消費していることになる。

 この構図は、紅海でのフーシ派攻撃に加え、アメリカ・イスラエルとイランの戦争で一気に表面化した。米軍やイスラエル軍は大量の迎撃ミサイルを消費し、在庫不足への懸念も浮上している。

 そこで注目されているのがレーザー兵器だ。

◆「1発数ドル」で迎撃可能
 イスラエルの防空レーザー「アイアンビーム」は、ロケット弾やドローンを高出力レーザーで焼き切る方式を採用する。一部バージョンはヒズボラのドローン迎撃に使用されたとされるが、最新の100キロワット級システムはまだ完全実戦配備段階には至っていない。イスラエル空軍は、防空網として機能させるには追加配備が必要との認識を示している。

 通常のミサイル防空と異なり、迎撃弾を発射する必要がないため、極端にコストが低い。イスラエル側は2022年時点で「1回の照射コストは約3.5ドル」と説明しており、最近では2.5ドル程度まで低下したとの推計もある。

 DWによると、高出力レーザー兵器の多くは「1発3〜5ドル」で迎撃可能とされる。さらに、レーザーは「弾切れ」しにくい。ミサイルは撃てば在庫が減るが、レーザーは電力供給さえあれば繰り返し使用できるためだ。

 現代の海戦や防空戦では、「ミサイル不足」が深刻化している。特にアメリカ海軍の駆逐艦は搭載できる迎撃ミサイル数に限界があり、再装填には港へ戻る必要がある。安価なドローンを大量投入して相手の迎撃ミサイルを枯渇させる戦術が広がる中、レーザーはその対策として期待されている。

◆アメリカ海軍はすでに実戦配備
 レーザー兵器はまだ試験段階だと思われがちだが、アメリカ海軍はすでに実戦配備を進めている。

 軍事メディアTWZによると、アメリカ海軍は現在9隻のイージス駆逐艦にレーザー兵器を搭載している。主力は2種類で、ひとつは「ODIN」。比較的低出力で、ドローンのセンサーや赤外線誘導装置を「幻惑」するタイプだ。

 もうひとつが、ロッキード・マーチン製の「HELIOS」である。HELIOSは60キロワット級レーザーを搭載し、小型ドローン撃墜や小型高速艇への攻撃能力を持つ。搭載艦の米海軍駆逐艦プレブルはイラン沿岸へ展開しており、HELIOSを用いて実際にイラン製ドローンを撃墜したと報じられている。

 また、中東各国もレーザー兵器導入を急いでいる。DWによると、アラブ首長国連邦(UAE)ではイスラエル製「アイアンビーム」に加え、中国製やアメリカ製レーザー兵器導入も進んでいる。サウジアラビア、オマーン、カタールなども取得を検討しているという。

 背景には、イラン系ドローンやミサイルへの警戒がある。また、各国は「アメリカ製ミサイルへの依存」から脱却したい思惑も抱える。レーザー兵器は単なる新兵器ではなく、中東の安全保障構造そのものを変える可能性もある。

◆ただし『スター・ウォーズ』ではない
 もっとも、レーザー兵器は万能ではない。

 最大の弱点は天候だ。雨、霧、湿気、砂ぼこり、煙などはレーザーの威力を低下させる。特に中東では砂塵や高温環境が問題になるとされる。

 さらに、レーザーは目標へ数秒間照射し続ける必要がある。ニューヨーク・タイムズは、「スター・トレックのように瞬時蒸発させる兵器ではない」と指摘している。

 射程も短く、長距離弾道ミサイル迎撃には向かない。そのため各国軍は、レーザーを既存ミサイル防空の「代替」ではなく、「補完」として位置付けている。

◆「光」が防空を変える
 それでも各国はレーザー開発を急いでいる。

 従来型防空だけでは、コスト面でも在庫面でも持続できないためだ。各国軍は今、「ミサイルの時代」から、「ミサイルとレーザーを組み合わせた防空」の時代へ移行し始めている。

 レーザー兵器は、SFではなく「戦争の家計簿」から生まれた現実的兵器なのかもしれない。

Text by 白石千尋