中国EVに戦々恐々のアメリカ自動車業界 「流入なら壊滅的打撃」
中国広東省のGAC Aion工場のEV生産ライン(2025年9月)|Ringo Chiu / Shutterstock.com
アメリカの自動車業界がいま最も恐れているのは、中国製電気自動車(EV)の市場参入だという。現在、中国製EVは、バイデン政権時に導入された100%関税などの貿易障壁により、事実上輸入できない状態だ。しかし、中国車参入は時間の問題とも見られており、流入すればアメリカの自動車産業に壊滅的打撃を与えると懸念されている。
◆国策で拡大 アメ車は中国車に駆逐される?
デトロイト・ニュース紙は、中国の自動車産業は前例のない政府の補助金と庇護のもと、自動車市場を巧妙に構築してきたと指摘。現在、世界のEV販売台数の62%を中国製が占め、生産台数は2004年以降500%も急増していると説明する。その一方で、中国政府の政策は深刻な過剰生産を招いており、結果として中国車が不当に安い価格で世界中に輸出されていると批判している。
中国のEVはかねてよりアメリカ市場への参入を目指してきたが、貿易障壁によりその道は閉ざされてきた。しかし、現行の規制が撤廃されれば急速に市場シェアを獲得する可能性が高く、それはアメリカの自動車産業や雇用に壊滅的な打撃を与える恐れがあると同紙は指摘している。
◆トランプ氏の心変わり 自動車関係者戦々恐々
トランプ大統領は、アメリカ・ファーストを謳って2025年1月に中国や他の国々との貿易戦争を引き起こしたが、その後、中国がアメリカで自動車を製造・販売することを容認する可能性をたびたび示唆してきた。そのため、米自動車業界や議員、有力な当局者は、13日に始まったトランプ氏の中国訪問に神経を尖らせていたという。(タイム誌)
訪問前に、超党派の連邦議会議員グループは、データセキュリティを理由に中国製車両を事実上禁止するバイデン政権時代の規則を法制化する法案を提出。さらに、現行の100%関税を延長または引き上げる全面的な輸入禁止措置を導入する可能性も示唆し、中国車への市場開放に断固反対を示していた。
◆高品質&低価格 外堀も埋められた?
今回のトランプ氏の中国訪問では具体的な成果は乏しく、自動車業界が恐れていたような合意は発表されていない。しかし、米ニュースサイト『アクシオス』によれば、業界の専門家の大半は、中国車のアメリカ市場参入は時間の問題だと見ているという。
過去には中国車を粗悪品とみなす風潮もあったが、実際のところ中国製EVの品質は非常に高いという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の自動車評論家、ジョアナ・スターン氏は、シャオミのEV、SU7 Maxにほれ込んでおり、同価格帯のテスラよりも上質な体験だったと絶賛している。政治と文化の雑誌、カレント・アフェアーズの編集長、ネイサン・J.・ロビンソン氏も、デザインもよく、乗り心地も快適で、走りもスムーズだとBYDのSUV、シーライオンを評価。なぜアメリカの自動車メーカーが輸入を許さないのかが分かったとまで述べた。
低価格も中国車の魅力だ。BYDは中国国内で小型EV「シーガル」を一時5万6800元(約133万円)から販売しており、これはアメリカで最も安価なEVとされるシボレー・ボルトの価格2万9000ドル(約461万円)を大幅に下回る。昨年、シカゴ大学が行った世論調査では、アメリカ人は国産EVを好むという結果が出たが、圧倒的な価格差や高騰する燃料代を含むインフレが、アメリカ人の愛国心を希薄化させるとタイム誌は述べている。
中国製EVへの障壁を維持するアメリカとは対照的に、世界各国でEVの輸入に対する受容度が高まっている。カナダは今年初めに保護主義的な貿易措置を撤廃し、中国製EVの新規輸入を受け入れる方針に転換。欧州では昨年末に中国製モデルが過去最高のシェアを獲得し、ドイツメーカーを脅かす存在となった。これにともない、製造投資も活発化し、オランダに本拠を置く自動車企業グループ、ステランティスと中国自動車メーカーが、スペインの2か所でEVを生産する契約を発表している。イギリスでは、新車登録台数に占める中国車の割合が、今年1~4月に14.6%に達した。(政治専門サイト『ポリティコ』)
タイム誌は、中国製EVがより安価で良質になれば、歴史的に見て貿易障壁を維持することはますますコストがかかり困難になると指摘。市民や市場の力を、政治的な足並みの一致だけで抑え込もうとする解決策は不安定であり、長期的には行き詰まるとの見方を示している。




