この世界はシミュレーションなのか?

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著:Zeb Rocklinジョージア工科大学、Associate Professor of Physics)

※本記事は、子供たちの疑問に専門家が答える『Curious Kids』シリーズの一編である。今回は、バングラデシュ・ダッカに住む13歳のMoumita B.さんから寄せられた「この世界はシミュレーションなのか?」という疑問に、物理学者が答える。

 何かが本物だと、どうやって分かるのだろうか。自分の指のように、直接見ることができるものもある。あごのように、鏡やカメラを使わなければ見えないものもある。また、目には見えなくても、親や先生に教わったり、本で読んだりしたことで信じているものもある。

 物理学者である私は、高性能な科学機器や複雑な数学を使って、何が本物で何がそうでないのかを解き明かそうとしている。しかし、こうした情報源はいずれも完全に信頼できるわけではない。科学的な測定が間違っていることもあるし、私の計算にミスがあるかもしれない。さらに、自分の目でさえ人をだますことがある。「何色に見えるか」を巡ってネット上で大論争を巻き起こした、あのドレスのように。

 どんな情報源も、時には人を惑わせる可能性がある。たとえ先生の言うことであってもだ。そのため、「私たちは本当に何かを信じてよいのか」と疑問を抱いてきた人々もいる。

 もし何も信じられないのだとしたら、自分が今目覚めていると本当に確信できるだろうか。数千年前、中国の思想家・荘子は自分が蝶になる夢を見て、実は人間になった夢を見ている蝶なのかもしれないと考えた。プラトンは、私たちが見ているものはすべて、本物の物体の影にすぎないのではないかと思案した。もしかすると、私たちが一生を過ごしているこの世界は本当の現実ではなく、巨大なビデオゲームや映画『マトリックス』のようなものなのかもしれない。

◆シミュレーション仮説
 シミュレーション仮説とは、テクノロジーに関する論理と観察を用いて、こうした疑問に答えようとする現代的な試みであり、私たちが巨大なビデオゲームのような世界に生きている可能性が高いと主張するものだ。20年前、ニック・ボストロムという哲学者が、ビデオゲームや仮想現実、人工知能が急速に進歩していることを根拠に、この考えを提唱した。その流れは今も続いており、今日では人々は没入感のある仮想現実空間に入り込んだり、意識を持っているかのように見える人工的存在と会話したりできるようになっている。

 ボストロムは、こうした技術的トレンドを未来へと延長し、何兆人もの人間をリアルにシミュレーションできる世界を想像した。そして、もし誰かが外見上まったくあなたと同じように見えるシミュレーションを作り出せたなら、その内面もあなたと同じ思考や感情を持ち、あなた自身と変わらない感覚を抱くだろうと示唆した。

 それが正しいと仮定してみよう。例えば31世紀のある時点で、人類が望むものを何でもシミュレーションできるようになったとする。その中には21世紀に強い関心を持つ人々もいるだろう。彼らは私たちについて学んだり、単に娯楽として楽しんだりするために、私たちの世界をさまざまな形で何度もシミュレーションするはずだ。

 ここでボストロムの衝撃的な論理を紹介しよう。21世紀の地球は一度しか存在しなかったとしても、最終的には何兆回もシミュレーションされることになる。そして、そのシミュレーションが極めて精巧で、中の人々が現実の人間と同じように感じているのなら、あなたが暮らしているのは唯一の本物の地球ではなく、何兆も存在するシミュレーション地球の一つである可能性が高い、というのだ。

 もし現在すでに、そうした強力なシミュレーションを実行できるのであれば、この主張はさらに説得力を増すだろう。しかし、将来いつか人類がそのようなシミュレーションを実行するようになると本気で信じるのであれば、論理的には、私たちはすでにシミュレーションの中で生きている可能性が高いと考えるのが自然だ。

◆私たちがシミュレーションの中に生きている兆候……あるいはそうではない兆候
 もし私たちがシミュレーションの中で生きているのだとしたら、それによって何か説明できることはあるのだろうか。もしかするとシミュレーションにはバグ(グリッチ)があり、そのせいで確かに置いたはずの場所にスマホがなかったり、何かが起こる前になぜかそれを予感したり、ネット上のあのドレスが奇妙な色に見えたりするのかもしれない。

 私たちの世界には、もっと根本的な意味でシミュレーションに似ている点もある。原子よりもはるかに小さい特定の長さが存在し、それより先になると物理学者の宇宙理論は成り立たなくなってしまう。また、ビッグバンから現在までの時間では、約500億光年以上先からの光がまだ私たちに届いていないため、それより先を見ることはできない。これは、ピクセルより小さいものを表示できず、画面の端の向こう側も見えないコンピューターゲームに、不気味なほどよく似ている。

 もちろん、これらすべてには別の説明も可能だ。現実的に考えれば、スマホをどこに置いたのか単に勘違いしていただけかもしれない。しかし、ボストロムの議論には科学的証拠は必要ない。将来、強力なシミュレーションが数多く存在するようになると本気で信じる限り、その論理は成立するからだ。だからこそ、ニール・ドグラース・タイソンのような著名な科学者や、イーロン・マスクのようなテクノロジー業界の大物たちが、この仮説に説得力を感じてきたのである(もっともタイソンは現在、その確率は五分五分だとしている)。

 もっと懐疑的な人々もいる。これほど大規模でリアルなシミュレーションを実行するためには極めて高度な技術が必要であり、ボストロム自身も、そのようなシミュレーターは「神のような存在」だと表現している。そして、人類がそこまで高度なシミュレーション技術に到達できない可能性も認めている。いまだ決着には程遠いものの、シミュレーション仮説は、現実に対する私たちの根本的な認識に疑問を投げかけ、何百万人もの想像力をかき立ててきた、極めて印象的な論理的・哲学的議論なのである。

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Translated by NewSphere newsroom

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