数十年もの他者優先、女性の体が受ける代償

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著:Lowri Dowthwaite-Walshランカシャー大学、Senior Lecturer in Psychological Interventions)

 中年期は、多くの女性にとって不穏な気づきをもたらしうる。他人の世話、子育て、仕事の切り盛り、家事、家庭生活の維持に費やしてきた年月が、自分の体に負担をかけてきたと気づくからだ。

 中年期の女性は、心理学者が「自己沈黙(self-silencing)」と呼ぶ、他人のニーズを優先し、自分の感情を抑え込む状態が長年続いた結果、慢性的な健康問題のリスクが高まる可能性がある。この傾向は、他人の世話や人間関係の調和を優先するもので、多くの場合、女性が自分の気持ちを抑え、対立を避け、本音をのみ込むことにつながる。

 自己沈黙の一般的な形としては、人に気に入られようとすること、感情を抑え込むこと、自己表現を控えること、そして相手を怒らせないよう発言を慎重に選ぶことなどがある。

 中年期そのものが、身体面、ホルモン面、社会面、心理面で大きな変化を伴う移行期だ。自己沈黙しがちな女性にとって、この時期はさらなる負担となりうる。研究によると、気分の落ち込み、疲労、睡眠の質の低下、痛みやうずきの増加など、心身の不調をより多く訴える傾向がある。

 感情の抑圧や人間関係におけるストレスが長く続くことは、うつ病、心疾患、脳卒中など、さまざまな健康問題と関連していることを示唆する研究が増えている。さらに、こうした傾向は、糖尿病などの代謝疾患や、自己免疫疾患、がんを含む慢性炎症性疾患とも関連づけられている。

 もっとも、これらの研究は、自己沈黙がこうした疾患を直接引き起こすことを示しているわけではない。示しているのは、そうした傾向が同時に見られやすいということだ。それでも知見には一貫性がある。例えば、プリマス大学の研究では、線維筋痛症の女性は、生涯にわたる自己沈黙の傾向に加え、子供時代のトラウマ歴を報告する可能性が高いことが示された。

 多くの人にとって、このような対処パターンは幼少期から始まる。危険や不安の多い、あるいは不安定な環境で育った子供は、自分を守る方法として、自分の気持ちを抑えたり、苦痛を隠したり、対立を避けたりすることを学ぶかもしれない。やがて、この安全を保つやり方は、他者との関わり方として深く身についていく。

 中年期はしばしば、女性が限界に達し、支援を求める時期でもある。とはいえ、自分の気持ちを後回しにすることに慣れている人にとって、助けを受け入れるのは簡単ではない。彼女たちは一人で対処する力に長けており、他人に負担をかけたくないという思いから、自分の苦しみを小さく見せることがある。

◆自分を第一に考えることを学ぶ
 周囲からの支援が幸福感に良い影響を及ぼしうることは、研究で一貫して示されている。支えてくれる相手と感情を共有することは、ストレスが体に及ぼす生理的な影響を和らげうる。日々の責任をこなすうえで実際的な支援を受ければ、自己沈黙に伴いがちな圧倒される感覚や孤立感も軽減できる。

 医療専門職やセラピストも重要な役割を果たしうる。EMDRIFSなど、トラウマに焦点を当てた療法は、女性が子供時代のトラウマを処理し、うつ症状を和らげ、健康状態を改善し、慢性的な痛みを軽減する助けになりうる。

 女性の健康に関する研究では、女性が自分の気持ちを主張できないと、怒りや憤りが生じうることも指摘されている。そうした感情が表に出されないまま残ると、慢性的なうつ病につながる可能性がある。

 心理療法士やコーチが行うアサーティブネス(適切な自己主張)のトレーニングは、女性が自分の気持ちや意見、境界線を明確かつ丁寧に表現できるよう支援する。好みを伝え、断り、時間や自分の領域を守るための戦略を身につけるのにも役立つ。こうしたスキルを培うことで、心理的苦痛が軽減され、自信と自尊心を高めることができる。

 心理学者は、アサーティブネスと並んで、セルフ・コンパッションの重要性も重視している。これは、大切な人に向けるのと同じ思いやり、理解、優しさを自分自身にも向けることだ。

 この分野の第一人者であるクリステン・ネフ教授は、3つの重要な実践を勧めている。痛みや苦しみの感情に気づき、それを否定せず受け止めること。苦しみは人間に共通する経験だと認めること。そして、感情にのみ込まれるのではなく、意識的な気づきを保つことだ。実際には、今はつらい時期だが、自分だけではなく、やがて乗り越えられると自分に言い聞かせることを意味する。

 さらに研究では、セルフ・コンパッションを実践する中年期の女性には、健康と幸福の面で実際の利点があることがわかっている。実践している人はストレスを感じにくい傾向があり、健康を増進する良い習慣も維持しやすい。

 セルフ・コンパッションもアサーティブネスも即効薬ではない。それでも、感情面と身体面の健康を守るうえで重要な役割を果たしうる。女性が自分の気持ちに気づき、境界線を主張し、自分を責めるのではなく優しさを向けられるようになれば、ストレスの感覚を減らし、それが体に及ぼす悪影響も和らげられる。

 何世代にもわたり、女性は他人を世話し、人間関係の調和を保つよう求められてきた。それ自体は大切で、社会に必要とされる資質だ。しかし、その一方で自分の気持ちを表現できないと感じるなら、その代償は個人に重くのしかかりうる。

 社会的期待と感情表現、健康のつながりを理解することは、女性が自分自身を見失うことなく他者をケアできるよう、私たちがどのように支えるべきかを考える重要な対話のきっかけになるかもしれない。

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom

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