「死ぬ権利」めぐり父親と1年半の法廷闘争 スペイン25歳女性、安楽死直前に語った思い
カスティージョさんが亡くなった病院に集まる人々(3月26日)|Lorena Sopena / Europa Press via AP
あるスペイン人女性の死が、国内外で大きな関心を集めている。女性は精神的・肉体的苦痛に苛まれ、合法的に安楽死する許可を得ていたにもかかわらず、父親側の法的異議申し立てにより約1年半にわたって実施を阻まれてきた。3月下旬、本人は最終的にスペインの安楽死法に基づく処置を受けて死亡した。この事件をきっかけに、安楽死の是非や死ぬ権利のあり方が改めて問われている。
◆父親が反対 承認から一転差し止め
安楽死したのは、ノエリア・カスティージョさん(25歳)。10代の頃から精神疾患に苦しんでいたという。家庭環境も複雑で、13歳のときに両親が別居したため、一時はカタルーニャ州の保護下で施設に身を寄せていた。性的虐待や暴行の被害も重なり、最後の被害の後の2022年10月、建物の5階から身を投げて自殺を図った結果、下半身不随となった。以後、安楽死を申請し、2024年7月にカタルーニャの公的機関から承認を受けた。(スペインの日刊紙エル・パイス)
しかし父親は、ノエリアさんの精神状態では自らの死について十分な判断能力がないと主張。保守系団体「キリスト教弁護士会」の支援を受け、裁判所に安楽死の停止を求めた。これにより手続きはいったん差し止められ、ノエリアさんは長期の法廷闘争を強いられた。今年1月にはスペイン最高裁がノエリアさんの権利を支持し、その後、欧州人権裁判所も父親側の差し止め請求を退けた。ノエリアさんは3月下旬、バルセロナ県サン・ペレ・デ・リベスの施設で安楽死により息を引き取った。(英インデペンデント紙)
◆苦しむ本人の気持ちは? 選択権は誰に?
死の前日に放送されたスペイン民放アンテナ3のインタビューで、ノエリアさんは安楽死は自分自身の選択だと説明した。自分はこれまで理解されたことがなく、ずっと孤独だったとし、安楽死を申請する前から自分の世界はとても暗く、暗い結末しか見えなかったと語った。(英ガーディアン紙)
父親については、自分が尊厳ある死を望む決断を法的に阻止してきたと批判した。また、家族の誰も賛成していないとしたうえで、「私は去るが、あなたたちはその痛みを抱えてここに残る。でも、これまで私が耐えてきた苦しみはどうなるのか」と問いかけた。そして「父親や母親、姉妹の幸福が、娘の幸福に優先してはならない」とも訴えた。(BBC)
さらにノエリアさんは、自分の後を誰にも追ってほしくないとも述べた。自分の人生は自分だけのものであり、誰かの手本になるつもりはないとしたうえで、「ただ安らかに逝きたい。苦しみを終わらせたいだけだ」と語った。
エル・パイス紙は、この事件がスペインの安楽死法の欠陥や脆弱性を露呈させるとともに、尊厳ある死を望む成人の決断を誰が止める権利を持つのかという論点を浮き彫りにしたと指摘した。同時に、専門家による承認を受けた若い女性の苦しみが、本人の意思に反して長引かされたとも論じた。
◆安楽死は非人間的解決法 命は守られるべき
一方、家族側は判決に深く失望したとし、父親側の代理人は「死は最後の選択肢であり、若い人にとってはなおさらだ」と主張した。スペイン政府が娘を見捨て、結果として娘を救えなかったと受け止めているとも述べた。
また、キリスト教弁護士会は、ノエリアさんの事例はスペインの安楽死法の重大な欠陥を示していると主張し、すべての命は守られるべきであり、見捨てられるべきではないとして、安楽死法の廃止を訴えた。
英スペクテーター誌は論評で、ノエリアさんの悲劇的な生と死は、国家が関与する安楽死の邪悪さを露呈したと主張した。精神疾患を抱える人や性的暴行に苦しむ人に対し、社会が差し出したのは連帯ではなく死だったと批判し、『慈悲深い死』の名のもとに人間としての義務が犠牲にされていると訴えた。さらに、国家が一部の命を生きる価値のないものとして扱い、その命を絶つことを認めるなら、それは人間の苦悩に対する解決策として死への扉を開く行為であり、非人間的だと断じた。




