『プロジェクト・ヘイル・メアリー』評 ゴズリングの「人間味」が際立つSF大作

Jonathan Olley / Amazon MGM Studios via AP

 宇宙を舞台にしたSF映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に主演するライアン・ゴズリングの演技に注目が集まっている。難解な科学要素を多く含むストーリーにもかかわらず、優れた表現力で作品にユーモアと人間味を吹き込み、作品の魅力を大きく支えているとの高い評価を得ている。

◆科学は背景 作品のテーマは友情と連帯
 本作は、SF作家アンディ・ウィアーが2021年に発表した同名小説の映画化作品。未知の原因により太陽エネルギーが奪われ、数十年後に寒冷化で滅亡する運命にある人類を救うべく、元科学者の理科教師グレース(ライアン・ゴズリング)が宇宙に送り込まれる。ミッションの途中、グレースは小さなエイリアンに遭遇。それぞれの故郷を救うため、力を合わせて奮闘し、不思議な友情をはぐくんでいくストーリーだ。

 本作は、ウィアーにとって『オデッセイ(原作:火星の人)』に続く2作目の映画化作品であり、本人もプロデューサーとして参加している。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、ウィアーは科学的な正確さの追求を信条としているとされ、本作にはその知識に裏打ちされた創造性あふれる宇宙の世界が広がる。一方、作品のテーマは主人公とエイリアンの垣根を超えた友情と連帯であり、『ET』や『未知との遭遇』にも通じるものがある。

◆「彼こそ特殊効果」ライアン・ゴズリング高評価
 作品に対する評価は全体的に好意的なものが多く、映画批評サイトのロッテントマトでは批評家スコア95%、観客スコア96%を記録している(3月23日時点)。なかでも高い評価を受けているのが、長時間にわたりほぼ単独で画面を支える役を担い、ユーモアあふれるセリフと人間味あふれる感情表現で見事に演じきったライアン・ゴズリングの演技力だ。

 トロント・スター紙は、ゴズリングが担った役割をこなせる俳優はそう多くないと指摘し、複雑な感情を繊細に表現した演技によって、スター俳優であるという印象を感じさせない自然さを見せたと評した。ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、ゴズリングの人間味あふれる演技を高く評価。グレースが亡くなった仲間を追悼する場面に言及し、控えめな別れのスピーチの後に涙をこぼすシーンは、観る者の心を強くつかむとした。

 本作の監督の一人フィル・ロードは、半分人形、半分CGIで描かれるロッキーという共演者との間に見事な相性を生み出したゴズリングの演技を称賛。彼の信念とキャラクターとの関係性が映画全体を支えており、これは編集や後処理では補えない、ライアン・ゴズリングという「特殊効果」だったと述べている。(BBC

 ゴズリングはプロデューサーとしても参加しており、「何事にもユーモアを取り入れたい」と語る。これまで一部の作品ではその機会が限られていたと明かし、本作では難解な科学を含むSFでありながら、ユーモアが物語を前進させる役割を果たしていると説明。近年あふれるディストピア的な物語から距離を置き、家族で一緒に観られる作品作りを心がけたとしている。(BBC)

◆難解?長すぎた?辛口評価も
 もっとも、科学的な内容が多く難解だとする指摘もある。これについてウィアーは、SF作家は読者が問題を解けるほど詳細に説明する必要はないと説明。映画では「1.5Gでこれだけの時間を加速すれば、ここでは地球の13年が約4年になると信じてほしい」と伝えれば、観客はそれを受け入れると述べている(NYT)。細部にこだわらずとも、ストーリーは十分に追えるという考えだ。

 最も問題視されたのは上映時間(156分)の長さだ。LATは、脚本に結末が多すぎることが理由だと指摘。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、物語が収束すべき場面で不自然な結末が重なり、20分は削るべきだったと評している。

 ニューヨーク・マガジン誌はさらに辛口の評価を示した。本作は本質的にSFアドベンチャーを装った子供向け映画だとし、観客を不気味さで満たすよりも、むしろ「かわいい」と感じさせようとしていると指摘。良し悪しは別として、その点では成功しているものの、単純なアニメ作品でも成立した可能性があると論じている。

Text by 山川 真智子