イラン体制転換に慎重だったトランプ氏、なぜリスク判断を変えたのか

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 2月28日に実施されたイランに対する軍事作戦により、ドナルド・トランプ大統領はリスクの取り方を劇的に変化させた。テヘランの聖職者体制と対峙するため、アメリカの軍事力をどこまで行使するかについて、わずか数カ月の間に判断を大きく修正した。

 これまでの歯止めは外れた。トランプ氏とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イラン指導部を標的とする攻撃を含む作戦計画を承認した。その対象には86歳のイランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師も含まれていた。トランプ氏は軍事作戦開始から数時間後、SNSに投稿し、ハメネイ師の死亡を勝ち誇るように発表した。

 トランプ氏にとって、それはわずか8カ月前の立場とは大きく異なるものだった。昨年6月、イスラエルがイランと12日間にわたり戦闘を行った際、イスラエルの強い要請を受けて、トランプ氏はB-2爆撃機を投入し、イランの主要な核施設3カ所を激しく攻撃することに同意した。しかし、イスラエル側がハメネイ師殺害計画を提示すると、同氏は明確な一線を引いた。

 トランプ氏は当時、望めば殺害も可能だったと遠回しに示唆する発言を繰り返した。だが、地域を不安定化させることへの懸念から、イスラエルの計画を退けた。

 その慎重姿勢は28日には影を潜めた。トランプ氏はハメネイ師が殺害されたと発表し、イスラエル軍もイランの国防相と革命防衛隊司令官を殺害したと明らかにした。イランの国営メディアは3月1日早朝、86歳の最高指導者の死を報じたが、死因には触れなかった。

 トランプ氏は「ハメネイ師は我々の情報網と高度な追跡システムから逃れることはできなかった。イスラエルと緊密に連携しており、同師や共に殺害された他の指導者たちにできることは何もなかった」と述べた。「これはイランの人々が自国を取り戻す最大にして唯一の好機だ」

◆トランプ氏、忍耐に限界
 トランプ氏は数カ月にわたりイランとの対話を模索してきた。トランプ政権幹部らは記者団に対し、民生目的で利用できる平和的な核計画を維持するための複数の選択肢を提示したと説明した。その中には、核燃料を恒久的に無償で供給する提案も含まれていた。

 しかし、公に発言する権限がなく匿名を条件に語った幹部らは、イランが核兵器用の濃縮ウランを求めているのは明らかだったと述べた。ある幹部は、イランは提案に対し「駆け引きや策略、時間稼ぎ」で応じてきたと語った。

 攻撃命令は、トランプ氏が特使のスティーブ・ウィトコフ氏とジャレッド・クシュナー氏を新たな協議のために派遣してからわずか2日後に出された。トランプ氏が忍耐の限界を示唆する中、中東や欧州の同盟国はアメリカ政権に対し、交渉にさらに時間を与えるよう求めていた。

 シンクタンク「国際危機グループ」のイラン担当ディレクター、アリ・バエズ氏は「影響は不透明だが、極めて広範に及ぶ可能性がある。約50年続く体制内部の力学、政府と不満を抱く国民の関係、さらにはイランと敵対国との関係にまで波及しかねない」と述べた。「体制は弱体化しているが、これを存亡をかけた闘いと受け止めれば、残されたあらゆる手段で反撃に出る恐れがある」

◆修正されたリスク判断
 28日の攻撃は、過去にイランに対して行われた一連の挑発的な行動が限定的な反撃にとどまったことを踏まえたものだ。こうした経緯がトランプ氏のリスク判断に影響した可能性があると、20年以上にわたり民主党・共和党両政権で中東問題を担当したアーロン・デイヴィッド・ミラー氏は分析する。

 トランプ氏は2018年、民主党のバラク・オバマ元大統領の政権が締結したイラン核合意から離脱した。2020年には、イラン精鋭部隊「コッズ部隊」を率いていたカセム・ソレイマニ司令官を殺害するドローン攻撃を命じた。

 当時、ソレイマニ司令官の殺害は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領がサダム・フセイン政権打倒を目的に2003年のイラク戦争を開始して以来、中東におけるアメリカの軍事行動として最も挑発的なものの一つとみなされた。

 さらに昨年6月、トランプ氏はイランの核施設への攻撃を命じ、その計画を「壊滅させた」と主張した。

 「彼はこれらすべてを、自身に大きな代償や深刻な結果を伴うことなく行ってきた」と、現在はカーネギー国際平和財団のシニアフェローを務めるミラー氏は語る。「彼は常にリスクを取る姿勢だ。それが彼の性格だ」

 トランプ政権は公に、核兵器と弾道ミサイル計画の放棄、さらに地域の武装勢力への支援停止をテヘランに求めていた。しかし政権幹部によれば、テヘランはミサイルや代理勢力の問題について協議に応じようとしなかった。

 数十年に及ぶ制裁で経済が疲弊し、昨年の戦闘で軍も打撃を受けている中でのイランの強硬姿勢は、トランプ氏を驚かせた。

 最新の協議が26日に終了する前から、トランプ氏が軍事行動に傾いている兆候はあった。

 24日、トランプ氏は一般教書演説で、イランがアメリカ本土に到達可能な弾道ミサイルを建造していると主張した。28日、イランへの爆撃開始を発表した際にも同じ主張を繰り返した。

 イランは大陸間弾道ミサイルを建造している、あるいは建造を目指しているとは認めていない。一方、アメリカ国防情報局は昨年の公開報告書で、テヘランがその能力の追求を決断すれば、2035年までに軍事的に実用可能な大陸間弾道ミサイルを開発できる可能性があると指摘している。

 マルコ・ルビオ国務長官は25日、イランが弾道ミサイル計画について協議を拒んでいることは「大きな問題だ」と述べた。ただし、国防情報局が示した見解については言及を避けた。

 元海兵隊員でアメリカの軍事介入に懐疑的な立場を取ってきたJD・バンス副大統領は26日、ワシントン・ポスト紙に対し、トランプ氏は攻撃を行うかまだ決めていないと語った。ただし、軍事行動がアメリカを長期の紛争に巻き込むことはないと強調した。

 「中東の戦争に何年も終わりが見えないまま関与し続けるという考えはあり得ない。その可能性はゼロだ」とバンス氏は述べた。

 27日までに、トランプ氏は再びイランの姿勢への不満をあらわにしていた。「彼らが我々の求めるものを提示しようとしないことに満足していない。全く喜ばしくない。今後どうなるか見てみよう」と語った。

 アメリカの主要議員らには28日未明、攻撃が差し迫っていることが伝えられた。トランプ氏はフロリダ州パームビーチの別荘マール・ア・ラゴで、国家安全保障チームとともに作戦を見守った。

◆ベネズエラでの成功体験が影響か
 ワシントンの保守系シンクタンク「民主主義防衛財団」のエグゼクティブディレクターで、元財務省高官のジョナサン・シャンザー氏は、今年初めに実施されたベネズエラ作戦の成功もトランプ氏を勢いづかせた可能性があると指摘する。

 トランプ氏はベネズエラの指導者ニコラス・マドゥロ氏を拘束し、妻とともにニューヨークへ移送して連邦麻薬共謀罪で起訴させた軍事作戦を成功させた。

 先月、トランプ氏は軍事行動を示唆したが、イランが抗議デモを武力で弾圧する中、実行を見送った。抗議は経済的不満を背景に始まり、やがて聖職者支配に反対する全国的な反政府運動へと拡大した。

 人権団体が数千人が死亡したと報告する中、トランプ氏は支援が間もなく届くと抗議者に呼びかけたが、即座に行動は取られず、デモは次第に沈静化した。

 シャンザー氏は、先月に踏み切らなかったことで、政権は現在の大規模な戦闘機や艦艇の展開を準備する時間を得たと指摘する。これはベネズエラ作戦前にカリブ海で行った軍備増強と同様の手法だという。

 トランプ氏は、こうした圧力がハメネイ師に譲歩を迫ると期待した。しかし最高指導者は屈しなかった。

 「この展開は避けられなかった。アヤトラが柔軟姿勢を示すことはあり得なかったからだ」とシャンザー氏は述べた。

By AAMER MADHANI and JOSH BOAK Associated Press

Text by AP