『果てしなきスカーレット』米紙賛否 「祈りのような作品」「近すぎ、届かない」

Sony Pictures Classics via AP

 細田守監督作品『果てしなきスカーレット』が2月13日、アメリカで一般劇場公開された。シェイクスピアの『ハムレット』を性別転換し、王女を主人公に据えた意欲作だ。ヴェネツィアとトロントの国際映画祭に出品され、映像面では高い評価を受けてきた。一方で米批評界では、古典の再解釈をめぐり賛否が分かれている。

◆『ハムレット』を性別転換
 『果てしなきスカーレット』は、シェイクスピアの『ハムレット』を性別転換し、復讐に燃える王女の物語として再構築したファンタジーアニメーションだ。

 舞台は16世紀のデンマーク。王女スカーレットの父アムレット王は、王位簒奪を狙う弟クローディアスに殺害される。成長し復讐を誓ったスカーレットもまた毒に倒れ、生死のはざまにある「死者の国」へと落ちる。そこで彼女は、現代日本から迷い込んだ救急隊員・聖(ひじり)と出会い、仇敵もこの地にいると知って復讐を続けようとする。

◆映像は評価、物語に賛否
 批評家全体の動向を示す映画レビューサイト「ロッテン・トマト」のスコアは75%で、高評価作に与えられる「認証済フレッシュ」を獲得している。映像面への評価はおおむね共有されている。

 米主要紙の批評も、視覚表現には一定の評価を与える点で一致する。ロサンゼルス・タイムズ紙は、異界の場面にフォトリアリスティックなCGを用い、16世紀の場面では手描きを採用した視覚的アプローチを評価。当初は違和感を覚えつつも、やがて世界観に調和すると述べる。広大な空間表現や細密な背景描写も見応えがあるとした。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙も「視覚的に印象的」とし、壮大な異界のスケールや怪物的な竜の造形を称賛する。一方で、構想の大きさが物語の整理を上回り、思索的場面がアクションの勢いを削ぐ場面もあると指摘した。

 ニューヨーク・タイムズ紙も背景美術の完成度を認める一方、人物の表情が人工的に見えると懐疑的だ。大規模な戦闘場面のテンポにもぎこちなさが残ると論じる。

◆「近すぎるが、十分に近づけていない」再解釈
 物語構成への評価はより厳しい。ニューヨーク・タイムズ紙は、シェイクスピアの雄弁な台詞を削ぎ落としたことで原作の機知が失われたと指摘。主人公スカーレットをハムレットとオフィーリアの「中途半端な複合体」と評し、恋愛要素を担う聖の存在が彼女の自立性を弱めていると論じる。「『ハムレット』に近すぎると同時に、十分に近づけていない」と総括した。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、古典を大胆に作り変える野心は認めつつ、結末は整いすぎており、悲劇的原作に比べて切れ味を欠くと評する。

 一方、ロサンゼルス・タイムズ紙は物語の核心を「赦し」に見いだす。後悔を示さない敵を許すという困難なテーマを正面から扱い、親子関係という細田監督が繰り返し描いてきたモチーフも本作の軸になっていると分析した。本作は、親切さこそが癒しへの道だと信じたい監督による祈りのような作品だと結んでいる。

 映像の完成度は広く評価されつつも、古典の再解釈としての踏み込みの深さをめぐって見解は分かれる。細田監督の野心的な試みは確かに注目を集めたが、その達成度については慎重な声も少なくない。

Text by 青葉やまと