トランプ関税、最高裁敗訴でも混乱拡大 1330億ドルの還付、揺れる貿易協定

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 アメリカの連邦最高裁がトランプ大統領による大規模関税を退けた判断により、同氏が思いつきで新たな輸入税を導入することはできなくなった。

 しかし、20日の判事たちの判断が、過去1年間にわたり企業活動を停滞させてきたトランプ氏の貿易政策をめぐる不透明感を和らげる可能性は低い。キング&スポルディングのパートナーで元アメリカ通商当局者の貿易弁護士ライアン・マジェラス氏は「事態はむしろ、すべての人にとって一段と複雑になった」と語った。

 なお重要な疑問が残る。最高裁が退けた関税を、大統領は他の法律を使ってどのように再構築するのか。それらの措置は司法審査に耐えられるのか。失効した関税を交渉材料に各国に受け入れを迫った貿易協定はどうなるのか。輸入業者は昨年支払った関税の還付を受けられるのか。受けられるとすれば、その方法は何か。

 さらにトランプ氏自身の予測不能さもある。不利な判断が出る可能性を踏まえ、数週間の準備期間があったにもかかわらず、対応は混乱した。20日、同氏は別の法的権限を使い各国からの輸入品に10%の関税を課すと表明。21日には15%に引き上げると述べた。しかし、24日午前0時1分に米税関・国境取締局(CBP)が実際に徴収を開始した税率は10%だった。

 通常であれば、最高裁判断に伴う関税引き下げは経済をいくらか押し上げると見込まれる。しかし銀行大手トゥルイストのアメリカ経済責任者マイク・スコーデルス氏は「その効果は、不透明感による緩やかなマイナスに十分打ち消されてしまう」と指摘した。

◆トランプ氏、新たな関税措置を模索
 トランプ氏が主にアメリカの慢性的な貿易赤字に対処する目的で1977年の国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき正当化してきた広範な関税は、効力を失った。ただし、大統領が他の法律を発動し、アメリカ経済を関税の壁で囲み直せないことを意味するわけではない。

 ベッセント財務長官は22日のフォックスニュースのインタビューで「関税収入は今年も将来も変わらない」と述べた。

 トランプ氏は20日に最高裁で敗れた直後、つなぎの選択肢に踏み切った。1974年通商法122条は、大統領に最大150日間、15%までの関税を課す権限を認めている。ただし150日を超える延長には議会の承認が必要で、11月の中間選挙を控える中、増税に消極的な議会が承認するかは不透明だ。

 122条はこれまで一度も発動されたことがない。一部の批評家は、貿易赤字に対処するためのIEEPA関税の代替として使うことはできないと主張する。

 全米納税者連盟のブライアン・ライリー氏は、122条は「根本的な国際決済の問題」に対処するための規定であり、貿易赤字を対象としたものではないと指摘する。

 同規定は、ドルが金と固定相場で結びついていた1960年代から1970年代の金融危機を背景に導入された。当時、各国は一定のレートで金と交換するためにドルを売却し、ドルには深刻な下落圧力がかかっていた。しかし現在、ドルは金と連動しておらず、122条は「事実上時代遅れになっている」とライリー氏は論評で述べた。

 ドーシー&ホイットニーのパートナーである貿易弁護士デイブ・タウンゼント氏は「アメリカ企業にとって問題となる金額の大きさを考えれば、122条をめぐる新たな訴訟の波が起き、徴収された122条関税の還付を求める動きが再燃しても不思議ではない」と語った。

 より有力な代替策は、同じ1974年通商法の301条だ。不当、不合理、差別的な貿易慣行を行っているとアメリカが非難する国に対し、強力な制裁措置を講じる権限を与える。グリア米通商代表は20日の声明で、最高裁での敗訴を受け301条に基づく一連の調査を開始すると明らかにした。

 トランプ氏は第1期政権で、中国がアメリカの技術的優位に挑戦するために用いた強硬な手法をめぐる紛争の中で、301条を発動し中国からの輸入品に広範な関税を課した。これらの関税は裁判所で支持され、バイデン政権下でも維持された。

 マジェラス氏は「導入から8年が経過したが、対中関税はいまも続いている。いったん導入されると撤廃が難しい関税だ」と語った。

◆トランプ氏の貿易協定をめぐる混乱
 最高裁の判断は、トランプ氏がIEEPA関税という事実上上限のない脅しを背景に、欧州連合(EU)から日本に至るアメリカの貿易相手国から譲歩を引き出して昨年まとめた一連の不均衡な貿易協定にも影響を及ぼす可能性がある。

 IEEPA関税の脅威が消えた今、各国は約束を見直そうとするのか。

 EUとの貿易協定は、最高裁判断と、それに対抗する形でトランプ氏が122条に基づく15%のグローバル関税を打ち出したことによる混乱の中で、すでに保留状態となっている。

 欧州の議員らは23日、説明を求めるため批准投票を延期した。新たな輸入税が、世界貿易機関(WTO)ルールに基づく既存の「最恵国待遇」関税に上乗せされ、EU製品に対する関税率が昨年合意した15%を上回ることを懸念している。

 欧州委員会のオロフ・ギル報道官は「合意は合意だ。アメリカがどのような道筋で合意を履行するのかを明確に示すのはあなたたち次第だ」と述べた。

 イギリスも昨年、対米輸出に10%の関税を課すことで合意している。これも15%に引き上げられるのかは不透明だ。

 もっとも多くの貿易アナリストは、アメリカの貿易相手国が昨年の合意をおおむね維持すると見ている。協定違反があれば、アメリカは事実上上限のない強力な301条関税で対抗する可能性があるからだ。

 マジェラス氏は「各国は協定を揺るがすことに慎重になるだろう。貿易協定違反は301条発動の根拠となり得る。301条がアメリカにとっての執行手段となる可能性がある」と述べた。

 グリア米通商代表は声明で「トランプ大統領が交渉したすべての貿易協定は引き続き有効であると確信している」と強調した。

◆混乱が予想される還付手続き
 最高裁は判決で、12月中旬時点で徴収されたIEEPA関税1330億ドルの扱いについては言及しなかった。輸入業者への還付という複雑な問題は、下級裁判所と関税を徴収する税関・国境取締局(CBP)に委ねられた。消費者への還付は想定されていない。

 すでに数百社が返金を求めており、当局の対応は追いつかない可能性が高い。還付には数カ月から数年かかる恐れもある。

 マジェラス氏は「全体として大混乱になるだろう」と述べた。

 投資銀行マッコーリーの戦略家ティエリー・ウィズマン氏とガレス・ベリー氏は、議会が税関に対し「ワンクリックで済むような簡易な還付手続き」を命じる可能性があると指摘する。一方で、トランプ政権が還付手続きを極力煩雑にし、輸入業者に大量の書類提出や訴訟提起を求める可能性もあると警告した。その場合、企業にとって大きな負担となる。

By PAUL WISEMAN AP Economics Writer

Text by AP