電力いらずの「バクテリアライト」を仏企業が開発 パリの夜に明かり戻る?

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 私たちは電気に頼った生活をしている。しかし電力は無限ではなく、各国政府が節電に力を注いでいる。例えばフランスのパリでは、省エネのために2013年から商店の夜間照明が禁止された。深夜1時から翌朝7時まで、ショーウィンドーや看板の消灯が義務付けられていて、照明を消さなければ罰金が課せられるという厳しいルールだ。といってもショーウィンドーは商店の看板で、多くのビジネスオーナーが戸惑いを隠せなかった。

 そんな中、新技術による朗報がやってきた。電力を使わずに光を放出するライトが実用化段階に入ったのだ。

◆秘密は、発光バクテリア
 この特殊なライトを発明したのは、パリの「グロウィー(glowee)」という社員10数名のスタートアップだ。同社ホームページのフランス語版によると、2015年末からライト設置サービスを開始したという。ルイ・ヴィトンなどを傘下に置く「LVMH」やアディダスなどの企業がすでにパリのイベントでこのライトを使用している。昨年末、クリスマスマーケットで使ったフランスの町もあった。

 電力なしで、なぜ光るのか? このライトの秘密はバクテリア(細菌)にある。海の生物には体が光るものが多く、体内で化学反応を起こし発光したり、体内に住む発光バクテリアが光ったりする。それと同じ仕組みを陸上で起こして、ライトにしようという発想だ。とはいえ、生きている生物から発光バクテリアを取り出すことは困難だ。

 そこで、バクテリアの発光をコントロールしている遺伝子コードを、人間も持っている腸内細菌に適用した。青緑色にほのかに光るようになった腸内細菌は、栄養分があれば生きられる。最初は数秒しか生きられなかったが、長く生きられるように工夫して栄養分を混ぜたジェルに住まわせ、連続3日間光らせることに成功したのだ。この光る腸内細菌入りジェルを形状が様々な透明のケースに詰めれば、デザインが違うライトになるというわけだ。光らなくなったら、中身を交換すればいい。

 同社では、ハワイアン・ボブテイル・スクイッドというイカの発光バクテリアの遺伝子情報を使っている。バクテリアライトはまったく新しい発明ではないが、商店を顧客ターゲットにしたのは、グロウィーが初めてだという。同社は、グロウィーのライトが市場に出回れば、通常のライトのために使われる全世界の電力使用を19%減らせると試算している。

 現在、バクテリアの寿命を延ばした1ヶ月間光るものを研究中だという。また、回りが明るいと青緑色の光が見えないため、夜だけ光るように切り替える分子でできたスイッチも開発段階だそうだ。

◆2億円以上の資金援助
 グロウィーを設立したのは、大学院で工業デザインを学んだ20代のサンドラ・レイ氏だ。起業のきっかけは、2013年、仲間と一緒に考えたこのライトのアイデアで、学生コンテストの優勝を手にしたことだという。

 イギリスの科学雑誌ニュー・サイエンティストによれば、レイ氏は、バクテリアライトが既存のライトに取って代わるということではなく、あくまで可能性の1つだと語る。本格的な商業化に向けての課題はあるものの、光を強くし、20度の暖かさでも生きていられるようなバクテリアの開発も進めている。

 否定的な意見もある。海洋学、海洋生物学者のエディス・ウィダー氏は、同じくニュー・サイエンティスト誌で、バクテリアライトよりもLEDライトのほうがずっと効率的だと指摘している。

 グロウィーが市場でどこまで受け入れられるかはまだ見えないが、ワイアード誌では、グロウィーへの投資額は170万ユーロ(約2億2600万円)にも上ると報道している。電力節約の面で、グロウィーに対する周囲の期待は大きい。若い起業家が目指す「明るいパリの夜の街」は戻ってくるか。

Text by 岩澤 里美