残業60時間以上で幸福度上昇も、健康リスク約2倍 調査結果
パーソル総合研究所と東京大学 中原淳准教授との共同研究「希望の残業学プロジェクト」の研究結果が発表された。本プロジェクトは、会社員6,000人を対象に定量調査を実施し、日本企業で常態化する「残業」の実態や発生要因、効果的な対策について検証している。
◆残業は「集中」して、「感染」して、「麻痺」させて、「遺伝」する
本プロジェクトは、残業が発生する職場の特徴について分析し、残業発生のメカニズムを検証した。その結果、残業は「集中」して、「感染」して、「麻痺」させて、「遺伝」することが明らかになったという。
◆集中:仕事のシェアがうまくいっておらず、優秀な部下ないし上司層に残業が集中している
上司を対象に調査したところ、「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている」人が60.4%を超え、スキルの高いメンバーに残業が集中していることが判明した。また、残業削減の対策を実施している企業で働く上司のうち30.4%の人が「部下に残業を頼みにくくなった」と回答している一方で、残業対策を実施していない企業の上司は同質問の回答が17.6%に留まることから、残業施策をしている企業ほど、上司への業務集中につながっていることが推察される。
◆感染:職場内の同調圧力により、帰りにくい雰囲気が蔓延する
残業が発生しやすい組織特性を調査したところ、「先に帰りにくい雰囲気」が最も残業への影響力が大きいことが明らかとなった。組織内の同調圧力によって残業が発生していることが示唆される。
◆麻痺:長時間労働によって「価値・意識・行動の整合性」が失われ、健康被害や休職リスクが高まる
残業時間に応じて、「幸福度」は徐々に低下するが、月60時間を超えると上昇することが明らかとなった。しかしその一方で、60時間以上残業している人のうち、強いストレスを感じている人の割合は残業しない人の1.6倍、重篤な病気・疾患がある人は1.9倍と、高い健康リスクにさらされていることが判明した。過度な長時間労働は主観的な幸福感を上昇させ、健康被害を軽視してしまう可能性があることが推察される。
◆遺伝:上司の若い頃の長時間労働の習慣が、下の世代(部下)にも継承されている
部下の残業時間に影響を与える上司の行動について調査したところ、上司が「若いころ、残業をたくさんしていた」場合、その部下も残業時間が長くなる傾向にあることが明らかになった。また上司が新卒入社時に「残業が当たり前の雰囲気だった」「終電まで残ることが多かった」経験をしていた場合、転職して就業する企業が変わっても、部下に残業をさせている傾向にあることが判明した。残業体質は、世代と組織をまたいで受け継がれているようだ。