「人材不足」への企業の危機感高まる リスク・クライシス管理の実態調査

Photo by dan carlson on Unsplash

 デロイト トーマツ 企業リスク研究所は、日本に本社を構える上場企業に対してリスクマネジメントならびにクライシスマネジメントの認識や、その準備・対応策の現状把握を目的に調査を実施した(有効回答454社)。

◆上場企業において最も優先して着手すべきリスクの種類
 日本国内において最も優先して着手すべきリスクの種類は、前回調査の2016年に引き続き「地震・風水害等、災害の発生」が35.9%で最多となった。日本国内ではこれまでも数多くの自然災害が発生してきたが、2016年4月に発生した熊本地震の影響が、いまだ企業の意識を高める一因となっているようだと分析している。また、昨今の働き方改革に繋がった背景から、「過労死、長時間労働等労務問題の発生」は16.1%と、前回調査の10位から7位へと順位を上げた。

 海外拠点においては、「子会社に対するガバナンス不全」が22.9%で1位(2016年は5位)となった。海外拠点におけるガバナンス体制の確立・高度化は、前回調査でも注目が高まっていることが見て取れたが、今回の調査で企業がその優先度を高めている状況が明らかになったといえる。

 また、特筆すべきは、「人材流失、人材獲得の困難による人材不足」が日本国内3位(2016年は6位)、海外拠点4位(2016年は7位)となり、ともに前回より大きく順位を上げている点だ。人材流動性の高まりを受けて、多くの日本企業が対応を急務としている意識が読み取れると研究所は分析している。

main

日本国内と海外拠点それぞれにおける、優先して着手が必要と思われるリスクの種類
※パーセンテージに続く( )内は、前回2016年調査時の順位。(-)としている項目は、今回調査より設けた項目
※各項目名に続く( )内の番号は、本調査において設けたリスクおよびクライシスの種類上の分類(全項目は別表を参照)

main

「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査」2017年版におけるリスクおよびクライシスの種類とその分類

◆上場企業がこれまでに経験したクライシスの分析
 発生年に関わらず、グループ内でこれまでにクライシス経験があるかどうかを聞いたところ、全回答企業の50.4%にあたる229社が「経験あり」と回答した。業種別にみると、電気・ガス業(80.0%)、金融業(66.7%)、陸・海・空運(61.5%)が、他の業種に比べ経験した企業の割合が高いことがわかる。

main

これまでのグループ内でのクライシス経験の有無(発生年に関わらず)

 過去にクライシス経験ありとした229社を対象に、クライシス発生時の対処ステージ(初動対応~事態鎮静化)までの成功要因を3つまでの選択形式で聞いたところ、最も多かったのは「トップのリーダーシップ、トップダウンでの迅速な意思決定がなされた」(52.0%)、つづいて「初動で潜在的影響を過小評価せず、迅速に必要な資源を投入した」(35.8%)であった。

 他方、過去にクライシスを経験していない225社へ対処ステージにおける成功要因と想定される要素を聞いたところ、最も多くの支持を集めたのは「クライシス発生に備えた事前の準備ができていること」(58.0%)であり、経験企業で割合の高い結果となった「トップのリーダーシップ、トップダウンでの迅速な意思決定がなされること」は、47.3%の4位にとどまった。

 クライシス経験あり企業は発生時の迅速なアクションを成功要因として挙げる一方で、過去にクライシスを経験していない企業は比較的準備段階の要素を重要視する傾向があり、クライシス経験の有無によって意識の違いが現れる結果となった。

main

「クライシス経験あり」企業が答える対処ステージの成功要因と、「過去に経験していない」企業が想定する成功要因

 なお、本調査におけるリスクマネジメント、クライシスマネジメントの定義は以下の通り。

リスクマネジメント:企業の事業目的を阻害する事象が発生しないように防止する、その影響を最小限にとどめるべく移転する、または一定範囲までは許容するなど、リスクに対して予め備え、体制・対策を整えること

クライシスマネジメント:どんなに発生しないよう備えても、時としてリスクは顕在化し、企業に重大な影響を与えるクライシスは発生し得ることを前提に、発生時の負の影響・損害(レピュテーションの毀損含む)を最小限に抑えるための事前の準備、発生時の迅速な対処、そしてクライシス発生前の状態への回復という一連の対応を図ること

Text by 酒田 宗一