トランプの「熱狂的な信者」の心の中は

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著:Ronald W. Pies(SUNYアップステート医科大学 Professor of Psychiatry, Lecturer on Bioethics & Humanities、タフツ大学 School of Medicine, Clinical Professor of Psychiatry)

 ドナルド・トランプ大統領が、今年の春にリバティ大学で卒業式の訓示を行ったとき、彼は卒業生たちに「アメリカは常に夢の国であり続けてきた。なぜなら、アメリカは熱狂的な信者たちの国だからだ。」と語った。アメリカでは、「我々は政府を崇めるのではない。神を崇めるのだ。」とトランプ氏は主張した。

 「熱狂的な信者」という言葉は、エリック・ホッファー氏によって1951年に出版された「大衆運動」という著書の中で、65年以上前に有名になった言葉だが、大統領はそれに気づいていなかったのではないかと、私は疑問に思っている。ホッファー氏は学問的な訓練を何も受けず、主に港湾労働者として働いていた。彼は、ファシズムとナチズムと共産主義の台頭に反応して「熱狂的な信者」を書いた。そして、あらゆる見込みに反して、その本はベストセラーになった。

 ホッファー氏は、国家主義者と全体主義者の運動に火をつける力を鋭く分析した。トランプ大統領が言う「熱狂的な信者」という言葉がもつ皮肉に、おそらく大統領も、彼の聴衆者も気づいていなかったと思える。

 精神科医としての私は、攻撃を受けやすい集団が、人を惑わせるようなうまい言葉にどのように操られるかということに興味を持っている。トランプ大統領の言う、うまい言葉と、ホッファー氏が探求した原理の間に、驚くほどの類似性があると私は信じている。

◆熱狂的な信者をターゲットにすること
 ホッファー氏は書いた。「巨大な変革という約束に向こう見ずにつっこむ人というのは、

 激しい不満を感じているに違いないが、貧窮しているわけではない」その人たちはまた、

 「未来の展望や可能性への途方もない概念」を持っている。そして、「自分たちの巨大な事業には困難が伴うことについては、全く無知である。経験はハンディキャップなのだ」とも述べた。

 トランプ氏の選挙運動の多くは、オバマケアの撤廃のような、巨大な変革の約束を基にしていた。このような約束は、その急激な変革に伴うであろう大きな困難のことは、決して勘定に入れていなかった。実際、2017年の2月後半に、トランプ氏が認めたのは、「医療がこんなに複雑なものだなんて、誰も知らなかった」ということだった。勿論、トランプ氏には、論争を巻き起こすことになるこの決定をするために必要な、政治的な経験も、公的な役職の経験も無かった。しかし彼はこの欠点を、巧みにも横柄に振る舞うことで、自分は、権威あるワシントンのお偉方と争う「部外者」であるという長所に変えてみせた。

 ホッファー氏によると、「熱狂的な信者」は、「新しい生活-再生-もしくは、それが駄目なら、神聖な理由を伴う一体感による誇り、自信、希望、目的意識と価値の新しい原理を手に入れるチャンス」を求めているようだ。トランプ大統領の「Make America Great Again(アメリカをもう一度偉大にする)」という繰り返された約束は、不満を抱いている有権者たちの中に存在する、そのような熱望に語りかけたものである。また、このメッセージは、福音派のキリスト教徒へのアピールとたびたび融け合うものだった。実際、ニューリパブリック誌に寄稿しているサラ・ポズナー氏は述べた。「トランプ氏は、宗教右派のルーツが白人優越主義にあるのだと、効果的なやり方でもちかけた」と。

 ホッファー氏は、熱狂的な信者はめったに事実を気にかけないと理解していた。彼が書いたのは、「その主義の真偽と、その約束が実行される可能性によって、新しい運動がうまくいくかどうかを判断するのは無駄なことだ」だった。

 トランプ氏の使うレトリックは、大統領顧問のケリーアン・コンウェイ氏が呼んだあのりっぱな言葉、「もう一つの事実」に基盤を置いていた。トランプ氏は繰り返し約束した。それは、ほとんどの専門家たちにとっては、うまくいきそうにもないとしか思えない約束だった。例えば、彼は、「私は大きな壁を作るだろう…そう、南の国境に。そして、メキシコにその壁の費用を払ってもらうつもりだ。私の言葉をよく聞いておいてくれ」と宣言した

 ホッファー氏は、「大衆運動は、神への信仰なしに起こり、広がる。しかし、悪魔への信仰なしにということはあり得ない」と認めた。さらに、「理想的な悪魔は、よそ者である…そして、国内の敵ならば、よそ者の先祖をもっていなければならない」のだ。

 それに忠実に、トランプ氏のキャンペーンは、反移民のテーマを繰り返し訴えた。また、しばしばイスラム教徒やメキシコ人をそしることもあった。トランプ大学に対する民事訴訟を受け持った時に、トランプ氏は、ゴンザロ・グリエル判事を立派に特徴づけた。トランプ氏によると、彼は、「憎しみを抱いている人」であり、「メキシコ人」であった。当のグリエル判事は、インディアナ出身であるという事実にもかかわらず。

 最後に、ホッファー氏は「熱狂的な信者」を、「正当な理由」のために死んでもいいと思っている誰かだと述べた。トランプ大統領の支持者の何人がその表現に当てはまるかは、明確ではない。しかし、トランプ氏自身は、こう言って、彼の最も熱烈な支持者の特徴を語った。「私が5番街の真ん中に立って、誰かを撃ち殺したとしても、それで有権者を失うことはないだろう」。そのような有権者たちは、エリック・ホッファー氏にとっては、まさにトランプ大統領の「熱狂的な信者」と呼ばざるを得ないものだっただろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation