白人が芸者の格好をするのはだめ? 気をつけたい海外が敏感な「文化の盗用」
任天堂が新作ゲーム『スーパーマリオ オデッセイ』のパッケージを一部修正したことが話題になっている。公式な説明はないものの、一部には「メキシコ文化の盗用だ」との指摘に応じたとの声も上がっている。日本ではまだ耳慣れないが、近年海外では「文化の盗用」という概念が活発に議論されているようだ。
◆マリオ問題をはじめ、「文化の盗用」に過敏なSNS
マリオ問題の経緯は、米ゲーム誌『ゲーム・ラント』に詳しい。人気シリーズの新作『スーパーマリオ オデッセイ』を巡り、パッケージの図案の一部にあったメキシコ衣装のマリオが削除され、水中を泳ぐイラストに置き換えられた。
この変更について、米オピニオン媒体『インディペンデント・ジャーナル・レビュー』は冷静な見方を示す。メキシコの民族衣装の採用を人種差別だとする声を、「SNSの正義の戦士たち」と皮肉混じりに紹介している。過去にも、タヌキの姿の「タヌキマリオ」が動物虐待だとして愛護団体からクレームを受けたこともあり、人気シリーズだけに過剰とも言える反応があるようだ。
米Web誌『デイリー・コーラー』も、批判の声をあげたツイッターユーザに対して多くのメキシコ人から反論が寄せられていると報じている。また、マリオ自体がイタリア人の設定なのに、そちらが問題にならないのはなぜかとの疑問も示している。マリオのパッケージ問題について、各メディアは比較的冷静な見方をしているようだ。
◆アメリカで流行の「芸者ルック」は日本文化の盗用なのか?
文化の盗用という批判は、ゲームに止まらない。例えば芸者の装いは海外でも人気だが、こと白人が姿を真似た場合、人種差別問題とも関連して大きな問題となることがある。
米NBCでは、超人気モデルのカーリー・クロスがファッション誌『ヴォーグ』に芸者の装いで登場し、謝罪に追い込まれた出来事を報じている。誌面ではモデルが着物姿で日本の神社や森林などを歩いたり、力士と並んで立ったりする姿が掲載されていた。白人がアジア人のように顔を白く塗ることは人種差別だとの批判が集まったようだ。白人がおしろいを塗ることは「イエロー・フェイス」と呼ばれ、反射的に非難する人々がいる。ただし、本人が謝罪する一方で、日本文化が海外に広まることを気にする人はいないという援護のツイートも日本人から寄せられている。
こうした批判は個人レベルに向けられることもある。ハフィントンポストのカナダ版では、ある母親が日本をテーマに娘の誕生日会を開いたところ、おしろいは差別だという攻撃的な声にさらされたと報じる。また、着物は日本文化の一部であり、白人が利用すべきでないという意見もあった。
また、米アトランティック誌では、2013年にケイティ・ペリーがアメリカン・ミュージック・アワードで着物を着てパフォーマンスし、物議を醸した事例を報道している。当の日本では問題視する声はあまり聞かないが、「文化の盗用」はセンシティブな問題になっているようだ。
◆文化の「伝播」と「盗用」の境界は?
ただし、グローバル化が進む中で、他の文化を一切利用してはならないという主張はナンセンスにも感じられる。英フィナンシャル・タイムズ紙では、一つの基準として、少なくともオリジナルの文化に敬意を払うべきだと指摘する。文化の伝播を肯定した上で、「以前からそこにいた人々に敬意を払う」ことが重要との論旨だ。
米Web誌『オブザーバー』も、一概に文化の盗用を非難すべきでないとの論調だ。記事によると、あるミュージシャンがネイティブアメリカンの立場に立ち、いかに米政府から苦痛を受けたかを歌い上げた。実は当人はこの民族と何の関わりもないが、人々に苦難の歴史が伝わり、商業的にも大成功したばかりか、不快に感じた人は誰もいなかったとのことだ。
先述の誕生会の例でも、ハフィントンポストでは様々な観点からの議論を取り上げている。日本文化の盗用だという声の一方で、日本人側からは、日本文化もアジアから影響を受けているという声がある。他の文化を受け入れることを批判すべきでないという論旨であろう。同メディアは別の例えとして、イタリア人しかピザを焼いてはいけないのか? という疑問の声も紹介しており、これには考えさせられるものがある。
少なくとも、オリジナルの文化圏の人々が嫌悪感を抱かない限り、文化の伝播は好ましいように思われる。しかし、過敏に反応するSNSの声もあり、一筋縄ではいかないようだ。