「今こそ日本株の買い時」目が覚めた安倍首相の原点回帰に期待する海外経済紙

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 今月2日に行われた東京都議会選で、自民党は大敗を喫した。大きな打撃を受けた安倍政権だが、海外の著名経済紙はむしろ、政権が経済政策に集中し直す好機と見ているようだ。日本経済の復活に期待が寄せられている。

◆大敗が首相の目を覚ます
 アジアのある投資アドバイザ企業は「景気加速へのプレッシャーが強まったことから、日本企業株の”明らかな買いのサイン”だ」(ブルームバーグ、7月4日)とし、肯定的な見方をしている。同記事は惨敗という結果を安倍首相への「モーニングコール」と表現し、憲法改正などに労を割いて支持率を下げている首相に軌道修正を期待する。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、自民党が127議席中、57議席から23議席に大きく減らしたことを紹介している。ただし「安倍氏にとってのバッドニュースは、氏が経済に再び注意を振り向けるようになれば、日本にとってのグッドニュースになる」(同紙、7月12日)と、あくまで今後の政策に注目するスタンスだ。両メディアとも、日本の経済政策の強化を期待した非常に建設的な論調となっている。

◆アベノミクス以外で評価を落としてきた安倍政権
 自民党が議席を減らした要因として、フィナンシャル・タイムズ紙は、森友学園と加計学園をめぐるスキャンダルを挙げる。アベノミクスの経済政策自体は良好で、スキャンダルにより国民の支持が急落したというのが同紙の見方だ。加えて安保関連法案と共謀罪への世論も芳しくなく、経済政策とは別のところで支持率を落としたと分析する。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙もほぼ同じ論点だが、こちらは憲法改正についてやや詳しく取り上げている。集団的自衛権はそもそも現行の憲法でも認められており、自衛隊の合憲性を改めて憲法に記すことは無意味だと論じる。このほか「共謀罪」法の成立など、期待された経済政策以外に注力して国民を落胆させたという分析は、前掲のフィナンシャル・タイムズ紙とほぼ同じ論旨と言えるだろう。

◆安倍政権の今後の選択肢は?
 海外の経済メディアが揃って期待するのは、景気回復政策への回帰だ。ブルームバーグは、経済の加速が安倍首相の「コア・タスク」だとする投資アドバイザ企業の見解を伝え、政策の焦点を経済に移すべきだと提言する。同メディアは都議会選で小池百合子氏が大勝したことも好材料になると見ている。東京は香港やシンガポールなど低税率の国々に比べてファンド企業への訴求が弱いが、小池氏が金融ハブとしての東京の魅力を高めるためにリーダーシップを発揮するのではと読む。

 経済政策に集中すべきだと説くのはウォール・ストリート・ジャーナル紙も同様だ。これまでのアベノミクスについて、円安によって輸出業などに貢献したとして一定の評価を与えている。しかし、2%の物価上昇目標を日銀が達成できていないほか、給与水準や消費停滞などの問題点を指摘する。同紙が状況打開の鍵と見るのは、労働法の改正だ。日本では失業率が低いにもかかわらず給与が上昇しないことに触れ、解雇が厳しく規制されているために余剰人員を削減できないことが原因と見る。「この隠れた失業が生産性向上の大きな障害である」(同紙、7月12日)とし、自由なレイオフが可能になれば景気回復につながり、安倍政権への支持も長期的には高まると予測している。

 歴史的な大敗を喫した自民党だが、海外メディアは経済政策に回帰する好機と見ているようだ。日本経済の再生に向けて再び歩み出せるか、政府の対応が試されている。

Text by 青葉やまと