「カナダ建国150周年」に先住民が抱える複雑な心情 奪われ続ける過去と今

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 カナダは7月1日、建国150周年記念を迎えた。この特別な「Canada 150」に向けて、カナダ政府では2010年から計画を練り、5億ドルの予算をかけてプロモーションを行ってきた。歴史的な節目となる今年2017年は、年間を通して様々な記念イベントや祭典が開催され、毎年行われるコンサートや花火、パレードなどが当日盛大に行われるほか、各地ではロゴをまとったあらゆる記念品が並び、例年よりも豪華に演出されている。しかし一方で、現地ではそのような光景を見て心を傷める人々がいる。

◆もともとカナダに住んできた人々
 CBCによると、多くのカナディアンがこの日を祝福する日として位置付けることに葛藤を抱いており、社会活動家のDoreen Nicoll氏は、「先住民に対する対応を無視している」と批判している。

「ファースト・ネーションズ」とは、カナダで一般的に使われているイヌイットとメティス以外の先住民に対する呼称で、在日カナダ大使館のHPによると、今から1万年以上前にベーリング海峡を渡ってやってきた彼らは、現在国民のほぼ1.8%を占め、そのうち55%が「保留地」と呼ばれる地域に住んでいる。

 イヌイットの映画製作者Alethea Arnaquq-Baril氏は、「150周年を祝うことは、この大陸で続いてきた1万年以上の歴史を否定するということです」と述べる(ガーディアン紙)。

 その背景には、17世紀初頭にヨーロッパから開拓者が入植して以来繰り広げられたイギリスとフランスの土地占領を巡る数々の争いを経て、ファースト・ネーションズはその後政府が設けた保留地へと移住したという経緯がある。

 ガーディアン紙によれば、19世紀後半に行われた同化政策では、強制的に約15万人の先住民の子供たちがキリスト教運営の寄宿学校へ送りこまれた。日常的な暴力や性的虐待によって多くの子供たちが命を失ったと言われ、1940年代には、アパルトヘイト政策を施行しようとしていた南アフリカ当局が、そのシステムを考察するためにカナダを訪問したという。彼らから言語や文化などのアイデンティティを奪ったこの政策は、今日の先住民のアルコールやドラッグ依存、家庭内暴力などの問題へと繋がっている。

 現代の先住民社会について、アーティストのJay Soule氏は「ある部分では変わったけれども、今も同じことが行われている」と述べ、「日常的に女性は行方不明になり、殺されている。多くの人が不当に投獄され、安全な飲料水も飲めない第三世界の環境で生きている」と語った(ガーディアン紙)。

◆先住民抗議団体 「歴史だけではなく、気候変動へも関心を」
#Resistance 150」は、8ヶ月前から先住民達が始めたムーヴメントで、Canada 150に対する抗議だけではなく、気候変動の実態に関心を集めることも目的としている。

 メンバーの一人Isaac Murdoch氏はCTVの電話インタビューで、カナダデーを支持しない理由を「私たちの領土から資源を掘り起こすことを祝福している」からであるとし、大部分の先住民達はこの祝典に参加しないと予測している。今年1月、トランプ氏の大統領令で事業再開となった「キーストーンXLパイプライン」、アルバータ州で採掘が行われているタールサンドなど、いずれも土地問題の末に開発されている資源採掘による環境破壊、それらによる先住民の生活への悪影響が問題となっており、現在も約90の先住民コミュニティには、安全な水の供給が行き届いていない。

 これらの反応を受け、カナダ遺産大臣のピエール オリバー・ハーバート氏は代表として、「Canada 150は、過去を振り返る機会でもあります。私たちはこの150年間、特に先住民の方々との関係において、完璧には程遠かったこと、そしてこの難しい対話を続けていくことの重要性も理解しています」というメッセージを発表した(CTV)。また、多くのファースト・ネーションズがCanada 150に参加しないということが国内各紙で取り上げられる中、トルドー首相は、彼らに敬意と理解を持って対応するよう呼びかけている(トロント・スター紙)。

 日本でも留学やワーキングホリデー、旅の行き先として常に人気のカナダ。美しい大自然と多文化の国として、常にたくさんの人々を魅了してきた。このカナダデーを、1年で最も楽しい行事の1つとして、心待ちにする人々も多いだろう。あまり触れられることのない部分を「知る」ことが、そんな素晴らしいこの国への理解を、さらに深める良いきっかけとなるに違いない。

Text by Sara Sugioka