TED日本語版はビジネスパーソンの学びの場 英語、仕事のヒント、プレゼン技術
TED(Technology Entertainment Design)の動画をすでにインターネットで視聴している人は多いと思う。ニューヨークに本部を置く非営利団体のTEDは毎年大規模な講演会を主催。当初、技術とエンターテインメントとデザインの3分野からスタートし、今ではビジネスや政治、生き方のヒントにまで対象を広げ、スペシャリストたちの最新の発見やエッセンスを20分程度のプレゼンテーションにまとめた動画を無料で配信している。その内容は大変にわかりやすく、また日常の仕事や生活に役立つものが多い。もちろん、自分の知らない世界の事象について見識を広げる機会にもなる。日本語の字幕が付き、全文和訳もあるため、英語学習やプレゼンテーションの手本にする人もいるほどだ。
◆アイデアの共有を使命とする非営利のグローバルコミュニティ
TEDが誕生したのは1984年、当初はCDや電子書籍でコンテンツが提供されていた。資金的な行き詰まりにも直面したが、賛同者の力で起動に乗りはじめたのは1990年から。カリフォルニア州のモントレーで毎年開かれるカンファレンスが立ち上がり、それまでは招待客が参加者だったが、多くの分野や学識者から情報共有を望む声が上がり、今日のような世界の人々に開かれた存在になった。
インターネット上での公開がはじまったのは2006年の7月からで、2009年にはTED Talk(プレゼンテーションの動画)は1億回の視聴を記録、2012年には10億ビューを達成した。2014年には30周年を迎え、カンファレンスの種類も開催地もさらに広がった。ネット上のプレゼンテーションは字幕とプレゼンターが語った全文訳を読むことができ、その対応言語も広がりを見せている。
◆ビジネスに役立つTED
フォーチュン誌が経営者向けと思われるTEDの動画を5つ選定している。日本語対応している4つについて、それを要約すると日本企業やビジネス全般にも通じる内容であることがわかる。大きくは「変化への対応」「多様性の受け入れ」「逆境やハプニングを利用する」ことの重要性を訴えている。
レジーナ・ハートリー:最高の人材の履歴書が必ずしも理想的でない理由
一流大学卒で推薦状付など完璧な履歴の人を「銀のスプーン」とたとえ、紆余曲折や変わった経歴が多々あるような人を「闘士」とすると、企業は「闘士」を採用するべきと主張する。自分の例も紹介し、過酷な家庭環境に育った698人を調査した結果、その3分の1が成人後に成功しているとする。大学を中退し、インドに長期の滞在歴もあり、読字障害もあったスティーブ・ジョブズを引き合いに出し、多様性を持ち包容力のある会社は業績も優れ、「闘士」を積極的に採用しているとしている。「闘士」は困難を乗り越えてきた実績があるからというのがその理由。
アレクシス・オハニアン:ソーシャル・メディアで注目を集める方法
環境保護団体のグリーンピースが1頭のザトウクジラに追跡装置をつける際に、そのクジラの名前を、“くだけたもの”も含めいくつか考案し、ネット上で投票者を募った。すると提示した名前のおもしろさで注目が集まり、環境保護支持者・非支持者にかかわりなく多くの参加が得られた。その反響でキャンペーンも成功し、実務の上では日本政府が捕鯨派遣を取りやめるまでに至ったとする。学ぶべきは「真剣な目的」であっても「肩の力を抜き」、ネット上で情報が独り歩きしてコントロールを失ってもそれを受け入れることと説いている。
ティム・リーバーレヒト:自分のブランドの制御をうまく手放す3つの方法
ネットの拡散力などで企業の悪い噂はまたたくまに広がり、内部では「社員のやる気を引き出しているか」という質問に管理職の27%がYesと答えても、「そう思う」社員は4%に過ぎないなど、ブランドや社員の忠誠心を維持するのが難しい時代だと述べている。その上で、無理にブランド管理・組織のコントロールをするのではなく、顧客や社員の選択や判断に任せてしまう方法もあるとしている。例えば社員ならば、仕事の権限まで与えてしまうと生産性が高まるという結果がある。「新品の購入の前に中古品を探しましょう」と大量消費に反対したメーカーは、逆に顧客との価値の共有ができたという例も示している。
マーティン・リーブス:百年続くビジネスを築くには
人の免疫システムにたとえ、ビジネスも「適合性」「思慮深さ」「組込み式」が大切であるとしている。アメリカの公開会社の平均寿命は30年、乗っ取りや倒産などで5年すら持たない会社が32%もある。そこで100年生き残るには「適合性」「思慮深さ」「組込み式」の特性を企業にも持たせるべきと説いている。同じフィルムメーカーだが、フィルムに頼り過ぎたコダック社は倒産し、デジタル化を見越してフィルムから化粧品などへ事業領域をシフトさせて生き残った富士フイルムの例などを取り上げ、時代や環境変化の読みと適合への取り組みが明暗を分けたとしている。
◆社会や人々に知識のみならずやる気も起こさせる
プレゼンターの話もうまく、もちろん内容もためになる。しかし驚くべきはこのような仕組みを生み出す社会のあり方ではないだろうか。日本でも同じような取り組みが、社会全体は無理としても企業内で起こるようになれば、事業環境の変化にも対応でき、創造力のある会社が生まれるかもしれない。また知識だけではなく、社会の変化や人生の困難に立ち向かうポジティブな意識が芽生えることにもなるだろう。
「やる気」に関わるTED Talkがあったので紹介したい。要約すると、インセンティブ(報酬等)は単純作業には効果があるが、クリエイティブな仕事では、それよりも自由度を与えるほうが成果が上がることを述べている。仕事の多くは機械やコンピュータに置き換わっていくことが予想され、より創造的な仕事を人間は担わなければならなくなる。その時のモチベーションについて説いているのだ。
TEDのひとつひとつのテーマと発表内容は、誰にでも理解できるように平易化してあるせいもあるが、驚きに値する新発見というものでもない。重要なのは「肩の力を抜いて」共有しているところだ。共有・拡散することで別の誰かが新しい価値を発見することができ、やがて社会に還元されていくことになるだろう。