品質イメージ、「ドイツ製」1位に物申す 日本製はカナダ製より下の8位(コラム)
世界の消費者に最も信頼されている「メイド・イン・○○」の栄えある一位は……。ドイツを基盤とする統計サイト、スタティスタがダリア・リサーチの協力で行った品質イメージ調査「MADE-IN-COUNTRY-INDEX(MICI)2017」 の結果が先週発表された。世界52ヶ国、約4万3000人(各国とも2500人以上が回答)が、49ヶ国とEUを5段階評価。次に評価を数値化し順位決定。データは2016年12月~2017年1月に収集された。
インデックス100を獲得し堂々の1位に輝いたのはドイツ。調査実施国別では13ヶ国で首位となった。シュピーゲルなど、ドイツのメディアはこの結果をもちろん歓迎。しかし、わが日本はというとフランス、アメリカと同点で8位。カナダの6位やイタリアの7位より下という結果は不本意に思われる。イメージ調査といわれればそれまでだが、カナダとドイツの両方に暮らした筆者としては、どうしても1つ2つ疑問を口にしたくなってしまう。
◆アジアで強いジャパン・ブランド
スタティスタは調査の一部を無料で公開している。調査実施国ごとのランキングを見ると、「メイド・イン・ジャパン」は日本自身をはじめ、エクアドル、エジプト、マレーシア、ロシア、シンガポール、ベトナムで1位となっている。また、その他10ヶ国で2位か3位にランクインしている。唯一、日本製品に低評価を与えたのは中国で、40位。日本製品の中国での人気を考えると、この結果には首をかしげたくなる。
日本製品は高品質と最新技術、そしてコストパフォーマンスの良さで評価されたようだ。このコストパフォーマンスの良さというのは、一般市民が製品を評価するうえで重要な要素ではないだろうか。筆者がドイツの1位に違和感を覚えるのはこの点にあるように思う。
車にしろ家具にしろ工芸品にしろ、ドイツの高級品の品質が傑出しているのは疑いの余地がない。普段の生活ではほとんど目にすることのない重工業機器などにふれる機会もあったが、その精密さも世界最高峰と言えるだろう。Made in Germanyのブランド力もすごい。実際、メーカーの人に話を聞くと、それだけで商品が売れることもあるという(もちろん品質を伴ってのことだが)。
ただ、長く生活をしていると、ドイツにはいわゆる「手頃で良いもの」が少ないように感じる。一般市民の手に入るものといえば安物ばかりで、しかも驚くほど質が悪い。もちろん、低価格帯の商品は必ずしも「ドイツ製」ばかりとは言えないだろうが、庶民がふだん手にするもの、という意味で日々使う物に、どうしてもいいイメージを持てないのだ。これについては後述する。
◆カナダは首相でイメージアップ
数年前、カナダでこんなテレビコマーシャルがあった。カナダ人とドイツ人が、テレビでとある国際試合を一緒に見ようとする。二人の男性はそれぞれ椅子を持ってくるが、その椅子には飛行機の座席のように傍から引っ張り出せるテーブルがついている。さっとテーブルを引き出し優雅にビールを飲むドイツ人を横目に、カナダ人のほうはテーブルが引っかかって出てこず、ガタガタと椅子を揺らし、しまいにはビールもこぼしそうになる。
こんな自虐ギャグを楽しめるほど、カナダでも「カナダ製」より「ドイツ製」への信頼が高かった。そもそも「カナダ製」と聞いて思い浮かべる商品もそれほど多くはない。それが今回6位につけたのは、どうやらトルドー首相の人気と関係があるようだ。統計では12ヶ月間でのイメージの変化についても調べているが、カナダ製品に対する評価は12ヶ月間に45%上がっている。カナダのCTVニュースが、ドイツのスタティスタの市場調査部長、ニコラス・ルーゼ氏に電話インタビューしたところ「過去12ヶ月でカナダと聞いて思い浮かぶことといえば、ジャスティン・トルドーだ」と答え、このイメージ向上に非常に驚いているという。
もう1つ驚くべきことがある。日本のイメージも同じく45%向上したのだ。これほど大幅に好感度を上げた国はこの2国のみだ。評価が上がった原因は何なのかと考えてみる一方で、12ヶ月前にはそれほど低かったのかという気にもなる。Made in Japanを信頼する私たちの考えと、あまりにもかけ離れてはいないか。
◆実際のドイツでの生活は
さて、低価格でそこそこのものが手に入る便利な存在として100円ショップがあるが、カナダやイギリスにも1ドルショップや1ポンドショップの類があり、同じように市民の生活を支えている。しかし筆者は、ドイツの1ユーロショップだけは利用しない。買ったその日にゴミ箱行きになるような代物ばかりだからだ。
先述のように「ドイツ製」とは限らないが、「ドイツでふだん手にするもの」の質を考えると、ナンバーワンの国に住んでいるような気はしない。例えば傘。ビニール傘ではなく一応ちゃんとした傘なのに、メタルのシャフトの部分がボキボキ折れる。容器やパウチ類はたいてい「開かない」。日本製の、簡単に開けられるパウチや包装、真空状態を保てる容器などに感嘆の声をもらすドイツ人もいる。食品を包む透明ラップに「切りやすい」ケースができたのはつい最近のことだ。冗談抜きで、以前は日本からラップを持ち帰っていた。
引き出し付きのナイトテーブルを購入したが、誰が見ても解読不可能な説明図に組み立てを断念し、地下室に放ることになった。箱に輝くのはMade in Germanyの文字。ブランド力がすごいぶん、質の悪いものをつかまされるという可能性もあるかもしれない。良い品が輸出向けというのもあるだろう。日本の雑貨屋に置いてあるドイツ製のおしゃれな布型スポンジなど、こちらでは一度も見たことがない。また逆に、こちらで安物とされている品が日本ではドイツ製の高級品として扱われている場合もある。
ドイツは地方により文化が異なるので一概には言えないが、値段の安いものが好まれる傾向にある。これは食品でも同様で、上質のパンがどんどん姿を消している。15年ほど前、筆者が移住した頃には「個人のパン屋さん」はほとんど見かけなくなっており、チェーン店ばかりになっていた。さらにここ数年はスーパーやディスカウントストアが店内でパンを焼くようになり、「パン屋」自体が苦戦を強いられている。なぜパンの国で良質のパンを手に入れるのに苦労しなければならないのか。
質が下がり続ければ、お金を出してでも良いものを手に入れたい人たちが現れるのも市場の原理だろう。20年前はそれこそ食べられたものではなかったカナダのパンでさえ、近年はartisan(職人)のパンが登場して改善している。ドイツでも中年の中流層あたりから少し高級志向が見られるが、筆者の暮らすフランケン地方ではその歩みは遅い。
「イメージ負け」の感のある日本だが、ドイツでも、やはり本物を知る職人やエンジニアなどの間では日本の技術に対してきちんとしたリスペクトを持つ人も多い。今後は日本製のブランディングに力を入れるべきかもしれない。