サムスンと韓国に学ぶ、政治腐敗を取り締まる方法

著:Costantino Grassoイースト・ロンドン大学 経営管理学 講師)

 スキャンダルにまみれた韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領がその職を追われた。憲法裁判所が朴大統領の罷免を決定したのだ。朴前大統領は職権を濫用し、自身の親友とサムスン電子を筆頭とする韓国の大企業との贈収賄問題に関与した罪に問われている。

 大統領弾劾承認の追い風となったのは、韓国最大手企業のサムスン電子の事実上のトップを務めた李在鎔(イ・ジェヨン)容疑者が逮捕されたことだ。同氏は、朴氏の弾劾訴追に関連する贈収賄や横領といった一連の政治腐敗にかかわった罪で起訴されている。李容疑者は一切の違法行為を否定している。

 検察側の主張によると、李容疑者は大統領の親友で相談相手でもある崔順実(チェ・スンシル)容疑者が関与する非営利団体に410億ウォン(約360万米ドル)の資金を提供し、その見返りとして李容疑者がサムスン電子グループのトップの座を継承するための買収劇に政府が介入し、便宜を図ったという。

 一方、崔容疑者は大統領との私的な関係を利用して国政に干渉し、さらには大統領との友人関係を示唆することで、自身が管理する財団に対して韓国国内にある複数の企業から数百万ドル相当の寄付金を不正に集めた罪に問われている。

 疑惑の3名はいずれも違法行為を否定している。しかし、2015年の腐敗認識指数[※1]で167カ国中37位だった韓国にとって、これは大きな打撃である。汚職報道を受けた韓国国民は激怒し、朴大統領の弾劾を求める抗議デモは数十万人規模にのぼっている。
[※1]訳者注:腐敗認識指数とは公務員や政治家の腐敗度合いを示した国際ランキングで、順位が低いほど腐敗度合いが高い。日本は18位。

◆腐敗のメカニズム
 とどまるところを知らない利害の対立やコネが絡み合う複雑な人間関係、そしてまん延する恩顧主義(政治的支援の見返りに品物やサービスを提供するもの)は、腐敗の象徴的存在だ。世界中どこに行っても政治の世界にはこういったことが掃いて捨てるほどある。

 適切な規制や企業統治が働かなければ、経済界と政界の密接な関係は腐敗につながりかねない。そのメカニズムは単純であり、理屈を並べずとも理解できる。つまり、企業と政府の癒着によって、企業側が巨額の資金にものを言わせて政治の形を不当にゆがめることがあるのだ。

 政治腐敗は貧困層や経済成長に大きな打撃となるだけでなく、日々の企業活動にも悪影響を与える恐れがある。腐敗した政治のシステムが企業に有利に働く場合もあるが、それは競争を阻害する危険性をはらんでいる。その弊害は他の競合企業だけではなく、消費者にまで及ぶことが多い。競争の不在は得てして価格上昇につながるからだ。

◆文化に変革を起こす
 企業と政府の歪んだ関係を打破するには、刑事訴追できる段階まで指をくわえているわけにはいかない。少なくともロビー活動(私的な政治活動)を通じて企業が法を犯すことなく政治に影響力を持つ「グレーゾーン」が存在するからだ。

 それよりも、企業が腐敗を許さない文化を構築、強化していけるような変革を起こす必要がある。企業に対して透明性を確保するためのルールを課すことも可能だ。たとえば、企業は直接間接を問わず、社員や社内のロビイスト(ロビー活動を行う人)に政治家経験者や官僚の近親者から金銭を授受している者がいるか否か公表しなければならない、といったものだ。

 企業の構造もまた腐敗に寛容な土壌を作ってしまう重要な要因だ。ほとんどの企業が軍隊式の厳しい階級制度を取り入れている。指揮系統を重んじた体制では上司や会社への忠誠心と従順さが奨励され、個人主義は排除されてしまう。このような専制的な構造こそが抗うことなく不正を受け入れてしまう文化を醸成してしまうのだ。

 縦割り構造を持つ企業が不正につながりやすいことの最新例が、ロールス・ロイスの事例だ。ロールス・ロイスが贈賄の罪に問われた裁判は数年に及んだ挙句、同社が総額6億7千万ポンド(約920億円)を支払うことで決着した。イギリスの重大不正監視局の調査によると、同社の規律的な階級制度が社内の機密性を高め、数年に及ぶ贈賄行為を許すことになったという。

 これが真実なら、サムスン特有の企業体制が今回のスキャンダルを引き起こした一因である可能性が高い。 サムスンは、経済力集中型の複合企業グループだ。実際、韓国では同社のような企業を「財閥(chaebol)」と呼ぶ。その語源は「王朝」だ。

 現代韓国の発展と経済の中心にあるのが財閥だ。財閥はいずれも創業者一家の支配下にある。通常、彼らが所有する株式が総資本に占める割合は、それほど大きくない。それでも創業者の一族はグループ内で確固たる権限を握る。企業の会長は絶対的な支配者となり、管理職の主要幹部のほとんどは親類縁者が独占する。先述のイギリスでの調査は、このように不動の忠誠心の存在が企業トップの不正行為を後押ししてしまう、と指摘している。

 経済界の腐敗と本気で戦おうとするなら、大企業の内部構造を変革する勇気を持たなければならない。その効率性は維持しつつ、同時に従業員の個人主義と説明責任を強化していかなければならない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac
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Text by The Conversation