“フランス人許さん…” イタリアを揺るがしたカルボナーラ・ショック 衝撃の調理法とは?

 フランスのウェブサイトで紹介されたカルボナーラ・レシピのビデオが、あまりにひどくて耐え難いというイタリア人が続出し、話題となっている。パスタへの「冒涜」という批判を受けて、ビデオは差し替えられてしまったが、アメリカからはパスタの「革命」を支持する声も上がっている。

◆伝統を傷つけられたイタリア人
 このビデオは、フランスのウェブサイト『Demotivateur』が紹介したもので、ファルファーレと呼ばれる蝶ネクタイ型パスタ、ベーコン、玉ねぎを一つの鍋で煮た後、クレームフレーシュ(サワークリームの一種)を加え、仕上げに生卵の黄身を飾るというお手軽レシピだ。英デイリー・メール紙によれば、ビデオは130万回再生され、イタリアで数千人がハッシュタグ#CarbonaraGate(カルボナーラゲート)で、怒りをシェアしたということだ。

 イタリアでは、茹でたてアツアツのスパゲッティに、フライパンでソテーしたグアンチャーレという生ハムを合わせ、卵の黄身、ペコリーノチーズ、コショウ、適量の茹で汁からなるソースに絡ませるのが正しいやり方だ。それなのに、鍋にありえない材料を投入して煮込み、生卵まで載せたことは、イタリア人にとっては「ホラー・ショー」だと英ガーディアン紙は説明している。

 ツイッターには、「フランス人がカルボナーラを殺した…あいつらは、カタツムリでも料理してろ」、「フランス人に告ぐ。『カルボナーラ』に触れるなっ」、「頼むから、パスタはイタリア人に作らせて」などのつぶやきが寄せられた。イタリアの新聞は、フランス版レシピは「神聖なるものへの冒涜」だと批判。フェイスブックには、「フランスでのカルボナーラの死に、5分間の黙とうを。無知であるフランス人をお許しください」という、皮肉たっぷりのコメントも見られたという(デイリー・メール紙)。

◆大手パスタメーカーもびっくり
 この騒動で慌てたのが、パスタメーカーのバリラ社だ。英ガーディアン紙によれば、ビデオに自社のファルファーレを使用するという条件で、同社は『Demotivateur』に協賛金を出していたらしい。

 ビデオが掲載された後、バリラ社はあくまでも宣伝目的でお金を出したのではなかったと主張し、『Demotivateur』については、「カルボナーラに様々な解釈をすることは自由だが、今回は『行き過ぎ』だった」とコメントしている。その後ビデオは削除され、現在は「正しい」レシピによるビデオが掲載されているとのことだ(ガーディアン紙)。

◆技よりも味。伝統に固執することに疑問
 ニューヨーカー誌のアダム・ゴプニック氏は、今回の「カルボナーラ危機」は、欧米を席巻するパスタ革命の一部だと述べる。

 同氏は、材料へのこだわりに疑問を持ち、いくつかの有名な料理は、田舎の農家がありあわせのもので作ったのが始まりで、レシピに沿って作られたのではないと説明する。今あるものを使って即興でどれだけおいしいものを作れるかが、まさに料理のテーマだという同氏は、カルボナーラもその一例で、手に入るもので工夫して作った『arte povera(貧しい芸術)』というイタリアの発明だとし、実は第二次大戦中、アメリカのGIが持ち込んだ卵とベーコンで作られた米兵の料理が起源だという説があることも紹介している。

 さらに1つの鍋で完結する調理法に対しても、同氏は寛容だ。もともと、この方法を紹介したのはアメリカの料理研究家、マーサ・スチュワートで、これまで必要だとされた面倒なテクニック抜きで、手軽に短時間でおいしいパスタを作れることから人気の調理法だという。

 ゴプニック氏は、我々はシンプルな料理には複雑な技が必要だと信じることを好み、良い料理人も料理本もみなそうだと教えていると述べる。しかし、簡単に同じ味が出せるなら、そんな考えはいらないのではないのかと述べ、今回の騒ぎはカルボナーラ危機ではなく、「こうあるべき」偏重主義の危機だと主張している。

Text by 山川 真智子